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» 2013年06月14日 10時30分 UPDATE

一撃「超」説得法:「マクベス」魔女の予言は巧みな一撃説得だった (1/2)

一撃説得の極意を捉えている例がある。それが『マクベス』の冒頭にある荒野で3人の魔女がマクベスに呼びかける場面だ。魔女の巧みな説得術をひも解いていこう。

[野口悠紀雄,Business Media 誠]

集中連載「一撃『超』説得法」について

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 本連載は2013年4月12日に発売した『「超」説得法 一撃で仕留めよ』(講談社刊)から一部抜粋しています。

 出版界の最前線で、100万部突破をはじめ数々のヒット作品で多くの読者の心をつかんできた野口悠紀雄が、成功する説得の要点を大公開。

 「たくさん投げるは人の常。一撃突破は神の業」「ドラッカーを読むより聖書を読もう」「必要なのは、正しさでなく、正しいと思われること」「うまく命名できれば千人力」「悪魔の方法から盗めないか?」など、全11章で説得までの筋道を、順を追って分かりやすく解説。

 説得の理論、相手の心のつかみ方とそのタイミング、ネーミングや比喩の使い方、やってはいけない説得法まで、具体的事例を交えながらビジネスシーンで活用できるノウハウを伝授する。


 「一撃説得」は、単に「説得の言葉が短かければよい」のではない。短い言葉として何を選ぶか、それをどのような形で投げかけるかが重要なのだ。これらについて『マクベス』の冒頭にある荒野で3人の魔女がマクベスに呼びかける場面が、多くを教えてくれる。魔女は次のように言った。

 「グラーミスの領主マクベス万歳!」「コードアの領主マクベス万歳!」「汝はいずれ王になる」(All hail, Macbeth! Hail to thee, Thane of Glamis! All hail, Macbeth! Hail to thee, Thane of Cawdor! All hail, Macbeth! That shalt be king hereafter!)

 この場面は魔女がマクベスの運命を「予言した」と、普通は読まれている。しかし「ダンカン王殺害をそそのかしたのだ」と解釈もできる。つまり、魔女はマクベスを「説得した」あるいは「操縦した」のだ。

 この説得によって、それまでの忠臣マクベスは逆臣に変身する。そして運命の坂を転げ落ちていくのである。魔女はいくつかの言葉を投げかけただけで、マクベスの運命を変えてしまった。

 そう思って読むと魔女の言葉は実に巧みだ。一撃説得法の極意がここに凝縮されている。だからそれを研究すれば一撃説得法の教科書を書くことができる。私が読み取った「魔女の極意」を以下、説明することにしよう。

ルール1:注意を引け。名前は聞き捨てならぬメッセージ

 魔女はまず、「マクベス」と名を呼んで彼を振り向かせている。この段階が必要なのは、魔女とマクベスはそれまで会ったことがなくこれが初対面だからである。当然のことだが、初対面の人を説得するには、まず注意を向けてもらわなければならない。

 「相手の注意を引け」。これが「超」説得法の第1のルールだ。

 注意を向けてもらうために最も有効なのは、相手の名を呼ぶことである。平凡なようだが、通りすがりの人の注意を引きたいのであればこれは絶対に必要なことである(後で述べるように、連れのバンコーに対して、魔女は名を呼んでいない。それはバンコーが魔女の予言に多大の関心を持ったからである)。

 人は「自分の名」に対しては、特別鋭敏な受信感覚を持っている。雑踏の中でさえ、自分の名だけは聞き分けられる。そして、必ず耳を傾ける。「自分の名前」は「聞き捨てならぬメッセージ」なのである。荒野で突然自分の名を呼ばれたマクベスが振り返ったのは、当然のことだ。

ルール2:人は「聞きたいと願っているメッセージ」に興味を持つ

 魔女は次に、マクベスの心の底に潜んでいた欲望を言い当てた。「コードアの領主」である。このときマクベスはグラーミスの領主ではあったが、コードアの領主ではなかった。しかし謀反を起こしたコードアの領主を打ち破った戦勲により、その後釜に座れる可能性は十分あった。

 マクベスは、上昇志向が強い人だ。だから「コードアの領主」はマクベスの心の底に潜んでいた願望であったに違いない。ただし、それは無意識の願望だ。明確に求めていたわけではないのだが、誰かがその可能性を言ってくれることを、潜在意識の中では待ち望んでいた。

 それを魔女がはっきりと言ってくれた。その一撃が、彼の心の深層を突然暴いたのだ。マクベスは目覚めさせられた。そして魔女の言葉に興味を持った。

 人は、聞きたいと願っているメッセージには耳を傾ける。だから、聞きたいメッセージを与えれば相手は関心を持つ。これが「超」説得法の第2のルールである。

 次期社長候補の最右翼である常務を、酒席で「うっかり」「社長」と呼んでしまい「失礼しました」というのは、現代日本に生息するゴマスリ・サラリーマンの決まり切った手段だが、同じ手段は何百年も前からの世界標準だったのである。

 なお、魔女はその前に「グラーミスの領主」と言っている。これで魔女がグラーミスとコードアを取り違えたのではないことが分かる。だから、マクベスは魔女の言葉を真剣に聞く姿勢になったのである。

 では「聞きたいメッセージ」とは何か? 簡単に言えば「そうなってほしい」と願っていることだ。人間が望んでいるものは多々ある。多くの人に当てはまるのは、経済的豊かさだ。「カネのことだろう」と言われれば身も蓋もないが、カネをもらって不愉快になる人はあまりいない。それ以外に、社会的地位、名声、健康なども、多くの人が望んでいるものだ。

 雑誌の特集で「金もうけできる」「偉くなれる」「健康になれる。または、病気が治る」「志望校に受かる」「望みの企業に就職できる」といったテーマを選ぶと、その号は必ず売れるそうである。

 相手が具体的に何を望んでいるのかを正確に捉えるには、事前の調査が必要である。それらをどう伝えるか? 「あなたはこれから金持ちになります」では、面白くない。

 「これまで行き詰まり状態だった案件が一転解決し、これからは良いことが起きる」、あるいは「運命に転機が訪れ、これからは良いことが起きる」と言うのが効果的だ。誰でも行き詰まり案件の1つや2つは持っているから、「これは、自分のことだ」と興味を持つのである。

 なお、関心を持たせるための方法は、聞きたいメッセージを与えることだけではない。例えば、論文や著作に興味を持ってもらうためには、書き出しの部分を工夫して、有用な情報が含まれていることを示すのが有用だ。

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