こうなる心理は明らかだ。マズイ状況をストレートに答えると、“責められるのではないか、叱られるのではないか”と思ってしまうのだ。また、単にサボっていたわけではなく、できなかったなりの事情があったことをどうしても相手に伝えたくなってしまうこともあるだろう。
一方、質問している側にすれば、“責めよう、叱ろう”と思っているわけではなく、単に状況を尋ねている場合が多い。できていないなら、できていないことを理解した上で、今後の対処を考えたいと思っているだけだったりする。だから、「終わっているの?」という質問には、「終わっていません」「まだです」と正直に即答してもらえたほうが会話がシンプルに済むのに、と思っているのだ。
なぜ、言い訳のように事情説明が長くなるのか。聞かれた側が「できていません」と素直に言えないのは、実は、相手との間に“言っても大丈夫と感じさせる安心感”が不足しているのかもしれない。冒頭の話に出てきた後輩も、私に叱られると思って即答できなかった可能性もある。
「○○はできた?」
「いや、やろうとは思ったのですが、他にもすることがあって……」
「○○はできたか? って聞いているのだから、“できたか、できていないか”を答えればいいよ」
こんなふうに突っ込むこともできるが、「ストレートに答えられない」状況、関係性を見直すことも大切だろう。
日頃から、怖い顔をして会話していないか。どのような内容であっても相手が自分に正直に言いやすいムードを醸し出すよう気をつけているか。「できていない」といった、よくない回答が返って来た時でも表情を変えずに聴けているか。質問する側は、自問自答すべきだ。
また、問われた側も自分の答えが、「質問への回答」になっているかどうか、振り返る必要もある。質問への答えの代わりにいきさつをこまごまと述べたところで、状況は何も変わらないのだから、正直に答え、その上ですぐ対応を共に考えてもらったほうがよい。結果的には双方の時間を有効に使えるはずだ。
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。
1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。
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