上場は考えず、非正規雇用全廃。牧場経営へ――異端のIT企業家、リンク岡田元治社長に聞く時代の変化に合った働き方(2/3 ページ)

» 2013年09月27日 08時20分 公開
[Business Media 誠]

――現在は、中洞牧場でリンクの社員の方は働いているのでしょうか?

岡田 いえ、山地(やまち)酪農はすばらしい農業ですが、都会の素人がすぐに働けるほど甘い現場ではありません。先々は参加することもあるだろうと考えていますが、東京から車で8時間以上、冬は零下15度以下になる厳しい環境です。東京の楽な暮らしに慣れた社員をいきなり放り込んだら倒れてしまいます。

 現在の主な役割は、東京をはじめとする都市部での販売、オンライン販売、バックヤードの運営等です。私も広告やサービスの販売はやってきましたが、農業はもちろんのこと、飲食も小売も初めてで苦労しています。ある程度、予想はしていましたが、予想を超える厳しさです。

ミッドタウンそばの通りを少し入ったところにあるミルクカフェ。やや分かり難い場所ではあるが、気軽に中洞牧場のミルクやソフトクリームを味わうことができる

――化学肥料を使って管理する牧草地ではなく、山の中に乳牛を放って1日中そこで生活させるという自然そのままの酪農を行っている訳ですが、TPPを巡る議論で主張される「効率化」とは真逆にある手法ですね。

岡田 その通りです。健康や安全保障の根本とも言うべき食糧生産を“効率”でくくるのは間違っていると思います。なので、やるべきことをやっているとは思っていますが、まともなことはなかなか儲からないというのも事実です。でも、当たり前のことですが、やり始めた以上、トントンにはもっていかないといけないと思って取り組んでいます。

 さらに言えば「効率化」という言葉自体、まず疑ってかかるべきだと思います。広大な平地を用意できる諸外国と違って、山の多い日本ではまず大規模農業なんて無理ですからね。

 TPPだって、ニュースで取り上げられているような農業など個別の事項を巡る議論ではなくて、ISD条項(投資家対国家間の紛争解決条項)、つまり外国企業が進出した国の制度・慣習・法律などに起因して不利益を被った場合は相手国を訴えることができるという環境を受け入れるか否かが最も重要な争点です。そうした中、「農業を守るために他の産業を犠牲にするのか」といった議論は、官僚・マスコミ・政治家などの得意技でしょう。

 先ほども言いましたように、農業は国土保全業であり、安全保障上の最重要課題なんです。農業の自由化を主張する欧米こそそのことをよく理解していて、自分の国の農業には、多額の補助金を投入していたりする。「効率」「自由化」といった、テレビや新聞で繰り返される言葉を鵜呑みにしていたら、負けっ放しになってしまいます。

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