「どうぞ、お座りください」――相手の心を無防備にするくつろぎの演出思うように人の心を動かす話し方

たいていの会社には、応接用のソファーが置いてある。実は、これには意味がある。フカフカの大きなソファーにゆったりと座ったほうが、リラックスできて気持ちにゆとりができるからだ。くつろぎの演出が、相手を説得しやすくするのだ。

» 2013年10月03日 11時00分 公開
[榎本博明,Business Media 誠]

集中連載「思うように人の心を動かす話し方」について

 本連載は、榎本博明氏著、書籍『心理学者が教える 思うように人の心を動かす話し方』(アスコム刊)から一部抜粋、編集しています。

「お1人さま3個までに限らせていただきます」と言われて、つい列を作って並んだり、本当に必要でもないのに商品を3個も抱えてレジに走ったりしていませんか? 実はこれ「今買わないと損!」と思わせて、お客を殺到させたり商品に飛びつかせたりするための、人の心を操る心理テクニックです。

あるいは「話だけでも聞いてください」と言われて、最初はまったく買う気がなかったのに、気付いたらとんでもない買い物をしてしまった……なんていう経験はありませんか? これは“フット・イン・ザ・ドア”と言われる、思うように人の心を動かす心理テクニックの1つです。

はじめからお願いしたら到底受け入れられない法外な要求でも、いつの間にか受け入れさせてしまう魔法のフレーズなのです。

他にも「どうぞ、お座りください」「そうですか、では……」「お隣のAさんもBさんも」など、人の心をぐぐっと動かすキラーフレーズや心理テクニックは世の中にたくさんあふれています。

誰でもすぐに使えて効果絶大な心理テクニックを本書ではたっぷり紹介しています。ぜひあなたも試してみてください!


応接室のソファーがフカフカな理由

 たいていの会社には応接用のソファーが置いてある。だが、必ずしもその座り心地や配置まで心配りが行き届いているとは限らない。

 大部屋の片隅に形ばかりの応接セットが密着して置かれている場合もあれば、ワンフロアーだけの小さな会社なのに応接用の個室ユニットをいくつか構え、ゆったりとしたソファーを置いてあることもある。

 だれでも硬くて小さな椅子にちょこんと座らされるより、フカフカの大きなソファーにゆったりと座ったほうがリラックスでき、気持ちにゆとりができるものである。こうした気持ちのあり方が、じつは相手の説得に対する受容性に関わってくるのである。

 説得したい相手を次の4つの条件のいずれかに割り当て、どの条件なら説得がうまくいくかを調べた実験がある。

  1. 立たせたまま
  2. 木製の硬い椅子に座らせる
  3. リクライニング式のクッションのない椅子に座らせる
  4. リクライニング式のクッションのある椅子に座らせる

 それぞれの条件のもとで、同じ内容の説得を試みたところ、1より2、2より3、3より4の条件下のほうが説得効果が上がることが分かった。つまり、身体がくつろげる状況ほど説得は効を奏するのである。

 やや強引と思われる説得を受けた場合、立ったままのように身体がくつろげない状況では反発が生じても、クッション付きのリクライニングソファーのようにゆったりとリラックスできる状況では好意的な反応が得られた。気持ちのゆとりが相手の言い分を辛抱強く聞く余裕をもたらしたものと考えられる。

 これにより、たかが応接セットとばかにできないことが分かる。同じ内容の説得であっても、座り心地によって成否が分かれるかもしれないのである。

 同様のリラックス効果を持つものとして、飲食がある。ソファーの座り心地と組み合わせることで、より効果を高めることができるだろう。

 例えば、ゆったりとしたソファーでお茶を飲み、スイーツをつまみながら、くつろいだ気分で話を聞いていると、相手のかなり無理のある提案をいつのまにか受け入れてしまうことにもなりかねない。

 応接室でなくとも、居心地のよいカフェやレストランも同様である。おいしい状況、気持ちのよい状況には、つねに注意が必要と言える。


(次回は「判断に迷っている相手には“まわりの人”を利用する」について)

著者プロフィール:

榎本博明(えのもと・ひろあき)

心理学博士。1955年、東京生まれ。東京大学教育心理学科卒業。

東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授等を経て、現在、MP人間科学研究所代表。心理学をベースにした企業研修・教育講演等を数多く行うとともに、自己心理学を提唱し、自己と他者を軸としたコミュニケーションについての研究を行うなど、現代社会のもっとも近いところで活躍する心理学者である。

著書に、『「上から目線」の構造』『「すみません」の国』(日経プレミアシリーズ)、『「上から目線」の扱い方』(アスコム)、『「俺は聞いてない!」と怒りだす人たち』(朝日新書)、『心理学者に学ぶ気持ちを伝えあう技術』(創元社)など多数。


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