「両面提示法」で、押しつけがましくなく押しつける思うように人の心を動かす話し方(2/2 ページ)

» 2013年10月15日 11時00分 公開
[榎本博明,Business Media 誠]
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説得効果は、それぞれどう異なるか

 一面提示法と両面提示法の説得効果を比較検討した古典的な心理実験がある。

 これは、第二次世界大戦中にアメリカで行われたもので、ドイツが降伏した後「日本との戦争がまだどのくらい続くか」をテーマとし、約600人の兵士たちに「かなり長びく」と説くものであった。

 ある兵士は「長びくことの根拠」ばかりを聞かされる一面提示法の説得を受け、ある兵士は「早く終わることの根拠」も交えつつ「やはり長びくだろう」という両面提示法の説得を受けた。

 説得効果をみてみると、どちらの説得法がより効果的かは、相手との関係により異なっていた。はじめから「長びく」と考えていた兵士には一面提示法が効を奏した。自分の考えをますます補強する効果をもったと考えられる。

 これに対して、「早く終わる」と考えていた兵士には両面提示法のほうが有効だった。反対意見をもつ者にとって、一面提示法は押しつけがましい感じになり、心理的抵抗を引き起こすのだ。

 結局、相手も同じような考えをもっているときは一面提示法で説得するのがよいが、説得する前から相手も同じ考えをもっているというケースは少ないので、多くは両面提示法で説得するということになろう。

相手の教育程度、情報量によって使い分ける

 同じくアメリカで、ソ連が原爆を開発したことが明らかになる少し前に行われた実験がある。それは「ソ連が原爆を開発するのはどのくらい先か」をテーマとし、「5年以上はかかる」と説くものであった。

 ある人たちは「少なくともあと5年は開発できない」ことの論拠を並べる一面提示法の説得を受けた。他の人たちはソ連がすでにかなり研究を進めており開発に成功する可能性が高いことも伝えつつ、「でもあと5年は開発できないであろう」とする両面提示法の説得を受けた。

 その1週間後、それぞれのグループの半数が逆方向の説得を受けた。つまり、ソ連が「すでに開発しており、2年以内に大量生産に移るだろう」との説にさらされたのである。

 さて、結果をみると、はじめの説得に関しては一面提示法と両面提示法の効果に差はみられなかった。しかし、逆方向の説得により意見が動かされるかどうかをみると、両面提示法の有効性が明らかとなった。

 つまり、一面提示法の説得を受けた者は、容易に逆方向の説得により意見を変えてしまう傾向が見られた。それに対して、両面提示法の説得を受けた者は逆方向の説得にさらされてもさして影響を受けなかった。

 これは、両面提示法による説得のなかで反対の立場の論点に関する知識も与えられていた者にとって、逆の方向への説得内容はとくにインパクトをもたなかったということであろう。

 さらに、相手の教育程度によって、どちらの方法が効果的かが異なることも分かっている。つまり、教育レベルの高い相手には、あらゆる要因を検討したという満足感を与え、押しつけがましくない両面提示法、教育程度の低い相手には単純でわかりやすい一面提示法が効果的に作用するのだ。


(思うように人の心を動かす話し方=終わり)

著者プロフィール:

榎本博明(えのもと・ひろあき)

心理学博士。1955年、東京生まれ。東京大学教育心理学科卒業。

東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授等を経て、現在、MP人間科学研究所代表。心理学をベースにした企業研修・教育講演等を数多く行うとともに、自己心理学を提唱し、自己と他者を軸としたコミュニケーションについての研究を行うなど、現代社会のもっとも近いところで活躍する心理学者である。

著書に、『「上から目線」の構造』『「すみません」の国』(日経プレミアシリーズ)、『「上から目線」の扱い方』(アスコム)、『「俺は聞いてない!」と怒りだす人たち』(朝日新書)、『心理学者に学ぶ気持ちを伝えあう技術』(創元社)など多数。


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