仕事は70%程度――ぶら下がる20代を次世代リーダーに変える処方箋続「新・ぶら下がり社員」

指示されたことはこなすが、それ以上はあえてしない。そんな若手社員が周りにいないだろうか? 「ぶら下がり状態」の社員にリーダーシップ力を付けてもらうために、上司や会社、本人に何が必要なのか。

» 2013年11月01日 12時25分 公開
[上口翔子,Business Media 誠]

新・ぶら下がり社員とは

会社を辞める気はない。でも、会社のために貢献するつもりもない。そんな30歳前後の社員のことを、本連載では「新・ぶらさがり社員」と呼ぶ。


『辞めません。でも、頑張りません。』 『辞めません。でも、頑張りません。』(吉田実、上林 周平、山田 静香・著、中経出版、本体560円)

 辞めません、でも頑張りません――。9月に公開した連載『続「新・ぶら下がり社員」』は、筆者と同年代の20〜30代ビジネスパーソンだけでなく、40代さらにはもっと上の層の方々など、多くの人から反響があった。

 「新・ぶらさがり社員」という言葉を初めて聞く人のために補足すると、ぶらさがり社員とは働く目的がないゆえに、会社では時間を「つぶす」ことに明け暮れ、常に70%の力で仕事に取り組む。主に30歳前後の社員のことをそう呼ぶ。しかし連載を通じて、ぶら下がり社員はあらゆる年代に当てはまることであり、連載の基となった書籍『「新・ぶら下がり社員」症候群』の筆者、人材育成企業シェイクの吉田実代表もそう指摘している。

 もう1つ述べておきたいのは、「新・ぶらさがり社員」は決して問題ばかりではないということ。むしろ与えられた仕事はきちんとこなす。ただし、ぶらさがり社員ばかりでは会社はまわらない。どの企業にも常に一定数いる存在なのである。しかしこれからの時代、広く捉えると日本経済を支えるには「新・ぶらさがり」社員ではない、「次世代リーダー」と呼ばれる人々も必要だ。

 吉田さんも10月31日に発売した刷新版『辞めません。でも、頑張りません。』の中で第4章「『20代からのリーダーシップ』が未来をつくる」を追記し、20代の人材育成の重要性を訴えている。今回はなぜこの章を追加したのか、訴えたいことは何なのか。吉田さんと共著の山田静香さん、書籍のプロモーションを担当するコミュニケーションデザインの岩淵あゆみさん、誠 Biz.ID編集記者で元「新・ぶら下がり社員」だった上口の対談を通じてお届けする。

 なお、本連載は全3回を予定している。第2回は「モーレツ社員がまたぶら下がるタイミング、そのとき必要なこと」第3回は「全世代のぶら下がり社員に向けて、今からできること」(仮題)を予定している。

「新・ぶら下がり社員」に反応する人は大丈夫

上口 この連載『続「新・ぶら下がり社員」』を公開してから、さまざまな方がメッセージをくれて本当に驚きました。純粋に記事を読んでもらえてうれしいのと、「新・ぶら下がり社員」と聞いてドキッとしたのは自分だけではなかったのだと安心しました。そして今は「いつまたぶら下がり社員になってしまうのだろう」という不安とプレッシャーを抱えながら働いています。それについては後ほど(第2回で)触れますね。

吉田 私もこの取材を通じて学んだことがあり、そのことを10月25日に配信したメルマガで書きました(以下、一部抜粋して紹介します)。

シェイク社長 吉田実コラム『記者は自分を映し出す鏡〜3つの学び』

皆さん、こんにちは。シェイクの吉田実です。

先日、誠 Biz.IDというメディアで『辞めません、でも頑張りません──「新・ぶら下がり社員」から2年、彼らはどうなった?』という連載記事が掲載されました。

この取材をして頂いた記者の強い想いと情熱ある姿勢に私自身が心を動かされ、私自身も、多くのことを学ばせて頂いた取材でした。今回は、この取材について私が感じたことをお伝えします。

記者と名刺交換をさせて頂いた後

「私自身、新・ぶら下がり社員でした」

という言葉から始まりました。

その後、自分が何を感じながら仕事をしていたか、

どのようにして、再び仕事を頑張ろうと思ったか、

自分のことを赤裸々にお話頂きました。

とてもオープンに自分のことをありのままにさらけ出し、

自分の想いを等身大で語られました。

自分がイキイキと働くために何をすべきかを考えた末、

最後に行き着いたのが、「自分にしか書けない記事を書くこと」

その記事に関する取材が、本取材でした。

「取材を通じて、同年代で悩んでいる人に、イキイキと仕事をして欲しい」

そう語る記者の言葉には、この取材にかける覚悟が感じられました。

10月になり3回に亘る連載が終わった後、記者から

『今回は本当に、自分の編集者人生の中できっと忘れない企画となりました』

とのメールを頂きました。

自らの想いに沿って、企画をして、やり遂げた充実感を強く感じました。

その偽りのない言葉に、私は胸が熱くなったのです。

私自身、この方との出会いを通じて、次の三点のことを学びました。

一点目は、「逆境経験こそが成長の糧」ということです。

この方のように若くして、会社にぶら下がってしまう人も、

心の底では何とかしたいという想いを持っています。

それは、「何とかしたいが、どうにもならない」逆境経験であり、

その逆境経験そのものが、本来の自分を見つける原動力になるのです。

「何がしたいのか分からない」

「自分自身の存在意義を見いだせない」

「仕事にやりがいを持てない」

このような葛藤は、本当の自分自身を見つけることに繋がります。

大切なことは、この葛藤と向き合うこと。

逃げずに向き合い続ければ、逆境は、成長の糧になります。

ニ点目は、「心の火がつく言葉やタイミングは様々」ということです。

人は、誰しも「自分らしさ」を持っており、

「こうしたい」という想いを持っています。

そのことを自覚できるタイミングが、人によって違うのです。

この方は、先輩から言われた一言、

「君はボールを投げたら拾ってくるワンコ。それだけ」という言葉。

それがきっかけで、「自分しか出来ないことをやろう」と決意しました。

大事なことは、誰もが「自分らしさ」を発揮できるし、

「したい」ことを見つけることが出来ると信じることです。

そして、周囲の人も、その人の可能性を信じ続けることです。

誰にも、心に火がつく言葉やタイミングがあるのです。

三点目は、「飾っても飾らなくても自分は自分」ということです。

この方は、自分を飾らず、ありのままの姿を赤裸々に語られます。

自然体なあり方に、惹き込まれる自分がいました。

ありのままのその姿はとてもパワフルです。

人は、自分自身を飾ったり、格好をつけたくなります。

自ら書いた記事の中で、自分自身が、悩んだり苦しんだりしたことも

正直に、赤裸々に語られています。

自分自身に嘘をつかずに、さらけ出した時、そこに本物を感じます。

純粋な想いに沿って、自然に生きている姿を感じました。

改めて、自分は自分でいいのだ、格好をつけなくていいのだと

感じさせてくださった出会いでした。

日々、リーダーシップ開発に取り組んでいますが、

リーダーシップを発揮するとは、

自分の可能性が最大限に発揮される自分に気づき、

自分の「したい」という気持ちに沿って行動することに他なりません。

リーダーシップとは、全員が発揮するものです。

20代からのリーダーシップ開発を通じて、世の中を元気にしたい。

それが私の想いです。

上口 こんなにすてきなコラムを書いて下さり本当にありがとうございます。あらためて、本企画を実施してよかったと思います。コラムの中でも触れていて、今回の刷新版『辞めません。でも、頑張りません。』で追加された「20代からのリーダーシップ開発」ですが、なぜ20代からなのでしょう?

吉田 新・ぶら下がり社員はどの年代にもいます。そして、いつからでも立ち直れる。しかしそれはできるだけ早いほうがよくて、20代からのリーダーシップ開発が志ある人材を創り出すのです。

岩淵 私も20代ですが、友人の中には久しぶりに会ってもそもそも仕事や会社の話なんてしない。職場を離れたら考えたくない、という人がいます。誰もが共通の悩みを持っていたり、自分の職場では当たり前だけど他の業界の人からすれば面白い、役立つ話があったりすると思うのですが、言いたくないようです。

山田 仕事の内容は、守秘義務があるので話すことができない方もいると思いますが、仕事を通じて感じたこと・気付いたことなど、体験談を話せるといいですよね。まだ入社数年なのに既に仕事に対して挫折感を持っている人もいると思います。そういう方は働く意味を感じられていない状態にあるのかもしれません。

上口 確かに、私も以前友人と話すときは極力仕事のことは話さず、あえて趣味の話をするようにしていました。自分の仕事に自信がないので、言いたくなかったんです。それであるとき中途入社で入ってきた先輩社員と飲みに行ったら、その先輩は仕事の話ばかりしていて、すごく前向きだったんです。驚きました。この人すごいと。実際にその先輩はぶら下がらないタイプの人でした。

吉田 仕事以外の話をするなということではないですが、定期的に同期あるいは部署で会議を開き、会社の何が問題なのか、それを変えるために自分は何をすべきかを議論する機会を設けるべきです。

 書籍でも紹介していますが、私たちの研修プログラムでは、自分自身の「主観」と他人からの「客観」の2つの視点で、今の自分の姿を知ることが最初のステップです。そうすることで、今起きていることを自分事として捉えられるようになり、本来自分がしたかったことなど、誰もが持っている「志」を再確認できます。

 自分の志を再確認したら、次は最初の一歩を踏み出してみること。「会議で発言をする」などほんのささいなことでいいです。そしてそれをやり遂げる。そしてまた繰り返す。ひたすら今に集中することで、自然と成長していきます。

周囲のサポートは?

上口 書籍ではその間、ときどき振り返ることも重要だと挙げていました。

吉田 育成プログラムでは、経験を内省させることをしています。何ができて、できなかったのか、それぞれの原因を分析してシートに記入してもらうのです。記入をしなくても、上司との面談を通じて定期的に振り返るといいでしょう。


 刷新版『辞めません。でも、頑張りません。』では、より具体的な方法や事例を紹介している。次世代のリーダーシップ開発に興味がある人、周りにぶら下がり社員がいて助けになりたいと思っている人はぜひ手にとってみてほしい(次回、続く)。

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