先輩たちはこう続けた。
「そうか! ホウレンソウの結果、自分に降りかかるネガティブな側面だけを考えるからダメなのかも。ホウレンソウすることで享受できる自分のメリットもちゃんと教えたらいいのかな」
「『早めに教えてくれれば、サポートをつけたのに』とか『ヒントを与えたのに』とか」
「ホウレンソウしておくことで互いに助け合えるという面、上司や先輩も状況が分かれば対処法を早い段階から一緒に考えてくれる、といった側面を理解させてなかったかな」
「確かに!」
相談したことによって、他者がヒントをくれた。
遅れ気味だと報告したら、サポートする人をつけてくれた。
トラブルが起こったことを報告したら、チームを挙げて対処してくれた。
こうしたホウレンソウによる個人やチームのメリットをもっと教えたほうがよい。早めに言うことで自分も業務を完遂しやすくなることを理解できれば、若手も進んでホウレンソウをするようになる。
ホウレンソウを若手の主体性に委ねるのではなく、最初から「期待するホウレンソウ」の意識を合わせておくことも重要だ。
「○○ができたタイミングで一度中間報告をしてほしい」
「○月○日の時点で一度話を聴かせてね」
「○○が分からない時はすぐ訊きに来て」
など、成果物や日時を示して、あらかじめ「報告」や「相談」を受けるポイントを双方で確認しておくのだ。ホウレンソウ自体を作業計画に組み込んでしまう。これだけでも若手のホウレンソウは上司や先輩が望むタイミングや内容に変わってくる。
もう一つ。
今は、“ホウレンソウ自体”をなかなか見る機会がない、という問題もある。
オフィスにITが浸透した昨今、大半のコミュニケーションは電子メールやチャットツールなどで行われる。電子的なコミュニケーション手段がここまで普及する前であれば、先輩が上司に対して行っているホウレンソウの現場を実際に目にする機会があった。
「ああ、こういう風に報告するのか」「相談というのは、こう行うのか」「タイミングがずれると叱られるのだな」などと“門前の小僧”としてホウレンソウを学ぶ機会は毎日のようにあったはずだ。
今の若手は、そういう場面を見る機会がほとんどない。だから、先輩のマネをしてみるわけにもいかない。あるリーダーは、そのことに気づき、後輩の指導に役立てようとしばらくの間、あえてホウレンソウを電子的に行わず、実際にやってみせたという。
「今から上司のところに報告に行くから」と、後輩を引きつれて上司の席に赴き、報告する様子を脇で見せる。上司に質問されて答える場面や、本当は見せたくない叱責を受ける場面もあえて見せた。こうやってホウレンソウを「体感」させたことで、その後、後輩のホウレンソウのレベルは格段に上がったという。
今は、どんなことでも電子的にやり取りされるが、後輩を育てる場面においては、このように多少「アナログ」な方法を取り入れてみることも時に必要だ。
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。
1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。
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