私が中間管理職のとき、部下からは「会社側の人間」と見られ、上司からは部下をまとめるように言われ。かといって、相談できる同じ立場の仲間がいなくて、とても孤独だと感じた時代があります。このようなネガティブな状態にあるときに抱くのは「誰かに分かってほしい」「話を聞いてほしい」という気持ちです。状況は違えど、誰もが一度ぐらいは、このような気持ちを抱いたことがあるでしょう。
「話し過ぎた」という言葉を使うことはあっても、「聞き過ぎた」という言葉を使うことがないように、ネガティブな状況に置かれているときは、人は自分の話を聞いてほしい生き物のようです。
もし同僚が「誰かに分かってほしい」という気持ちを抱いているなら、話を聞くことで欲求が満たされることになるので、信頼関係を築けるのではないでしょうか。また、話を聞くことで相手の本音を知ることができ、同僚が置かれている状況を共有することもできれば、分かり合うことができるでしょう。
話を聞くポイントは
積極的にうなづく、あいづちを打つ
相手が言っていることを繰り返す(オウム返し)
アドバイスや批判はせずに、相手の話を「ただ、聞く」。聞くに徹する(もし、アドバイスや提案があれば最後に)
です。
私たちは考えや体験を言葉で伝えるとき、「実際の考えや体験よりも、情報が省略・削除されてしまう」という特徴があります。自分は十分言葉にして説明しているつもりでも、情報は省略・削除されるので意外と言葉にできないのです(詳しくは、前回の「『伝える』前に知ってほしい、『伝わる』コミュニケーション6つの前提」を読んでみてください)。
言葉にできていないことを引き出すためのツールが「問いかけ」です。
物事を具体的にする問いかけで最もポピュラーなのが「5W1H」です。「5W1H」とはWho(誰が)What(何を)When(いつ)Where(どこで)Why(なぜ)How(どのように)のことです。
また私たちは五感を通して物事を認識しているので、五感を意識して問いかけるのもいい方法です。例えば「どんなシーンで(視覚)」「どんな声が聞こえて(聴覚)」「何を感じたのか(身体感覚)」のように。
その他、「例えば?」「具体的には?」などの質問も物事を具体的にします。
物事を具体的にする問いがあれば、その逆もあります。「具体化」の逆は「抽象化」です。
「抽象的」という言葉には「具体性に欠ける」というイメージがあるので、「物事を抽象的にすることに、どんな意味があるの?」と思われるかもしれません。「抽象化」には「物事をまとめる」「1つ大きな枠組みで捉える」「1つ上の視点から目的や意味を明確にする」という意味もあります。
例えばある仕事の締め切りにどうしても間に合わないと困っている同僚がいるとしましょう。そのときに、「そもそも、どうしてその日が締め切りなの?」という問いは、今まで締め切りだけに着目していた同僚の視点の枠組みを大きく広げてくれます。仕事のスケジュールは余裕を持たせていることも多いので、日程をずらす交渉をすることで解決できるかもしれません。
抽象化の問いのバリエーションとしては、「その目的は?」「その意味は?」「そもそも」「それをすると(しないと)どうなるの?」「本当に大切なことは?」「本当はどうしたいの?」というような問いです。
このように、「抽象化」の問いかけは、その目的や意味を明確にし、視点を1つ上に上げてくれます。問題の本質が見え、「本当に大切なことは何か」をお互いに共有できれば、信頼関係につながっていくでしょう。
今回は、相手に合わせ信頼関係を作る4つのステップ「観察する」「合わせる」「聞く」「問いかける」について解説しました。
コミュニケーションというとその範囲がとても広いので、難しいと思う人も多いと思いますが、その1つ1つのスキルは言葉にすると意外とシンプルです。何となく「コミュニケーション力を上げたい」と捉えるよりも、「今は観察しよう」「よし、意識的に合わせてみよう」「今は聞くことに集中しよう」「相手が何を言いたいのか、もう少し掘り下げてみよう」というような形で、1つ1つステップを会話の流れの中で意識しながら実践していくと習得しやすいです。
実際、私がさまざまな不安や悩みごと、問題や課題の相談に乗るとき、このようなステップや会話の流れを意識して接しているのですが、「あぁ、本当は○○で困っていたんだな」ということを共有できたとき、相手の方とまるで一体になったような、1つにつながったような、融合したような感覚をよく抱きます。
同僚を前向きに導く、改善点を伝えるなど、シーンはさまざまかと思いますが、何をするにも「○○さんなら分かってくれる」「○○さんなら話を聞いてくれる」というような信頼関係を作ることが不可欠です。できることからで構いませんので、皆さんも職場で実践してみてください。
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