なぜ、日本人の仕事が世界で認められているのか一流の働き方(1/2 ページ)

長かった不況で「モノづくりニッポン衰退」の声もあったが、世界のトップに君臨する「一流の職人気質」は消滅してはいない。海外へ行くと、そのことを痛感するだろう。

» 2014年02月04日 10時00分 公開
[川北義則,Business Media 誠]

集中連載『一流の働き方』について

 本連載は、2013年11月26日に発売した川北義則著『一流の働き方』(アスコム刊)から一部抜粋、編集しています。

 なぜあの人の仕事は、いつもうまくいくのか? 一流は困難なときこそ楽天的である。「忙しい」は、二流の口グセ。「努力」は、他人に見せたときに価値を失う。仕事ができる人は、孤独を恐れない――頭角を現す人にはこのような条件を持っている。

 本書は、人気ベストセラー作家が「頭角を現す人」の究極の仕事術を39の条件にまとめ語り尽す一冊。あなたも「あの人のようになりたい」といわれる人間になろう!


 アベノミクスで少しずつ景気は回復しはじめているのか、長かった不況で「モノづくりニッポン」の衰退の声もあったが、私は必ずしもそうは思わない。日本人独特の精緻(せいち)な技術力、高品質志向の精神は健在だから、まだまだ捨てたものではないと思っている。

 言葉を換えれば、世界のトップに君臨する「一流の職人気質」は消滅していないということだ。そのことは海外へ行ったときに痛感する。私は、最低でも年に1〜2回は海外へ旅に出る。2012年は大型客船で地中海クルーズの旅を楽しんだ。都会の騒々しい中で時間に追われるような日々を送っている身には、時間を忘れさせてくれる船旅はリフレッシュ効果抜群。

世界中の人が知っている製品がある

 その魅力に取りつかれたわけではないのだが、今回は夏にドイツからバルト海をサンクトベルグまで行く旅を楽しんだ。暑さが苦手な私としては、涼しい北の海でのクルージングは爽快だった。

 ドイツのキール港を出発して間もなく、ランチのテーブルで隣り合わせたイタリア人男性が私に話しかけてきた。片言の英語と身振り手振りでコミュニケ│ションを図ったのだが、とても興味深いことを語りかけてきた。

 「ノダ、ノダ」

 初めは政権を失った日本の前首相のことをいっているのかと思った。すると、右親指と人差し指で何かを持つしぐさで唇に当てる。そして、「ヒューッ、ヒューッ」と笛を吹くようなジェスチャーをする。私が怪訝な顔をすると、今度は脚で蹴るジェスチャー。分かった。サッカーだ。

 そこで、ようやく彼の言わんとしていることが判明した。日本ではあまり知られていないだろうが、イタリア人である彼は世界に名だたる「野田鶴声社」製のホイッスルのことをいっていたのだ。私が日本人だと察して話しかけてきたのだろう。彼はアマチュアの元サッカー選手で、現在はときどき少年サッカーチームの試合の審判をしているという。

 「ワンダフル、ビューティフル」

 彼は、いかに野田鶴声社製のホイッスルが最高であるかを私に訴えてきた。海外で日本文化の素晴らしさや日本製品の優秀さを評価されるのは、日本人として、とてもうれしいことだ。

高い技術が生み出す「納得の高価格商品」

 いままでヨーロッパをはじめ世界のほとんどの国々を私は旅してきたが、どの国でも、日本に一度でも来たことのある外国人は「ジャパン、ワンダフル」と日本をほめる。そしてわれわれ日本人が当たり前と思っていること、当たり前のように使っている商品が、外国人にとっては驚くほど質が高く、奇跡のように評価されているのだ。

 以前、私は町探訪をテーマにしたテレビ番組で、レポーターがホイッスルの野田鶴声社を訪ねるという企画をたまたま見ていた。もしそうでなかったら、彼が訴えていることは理解できなかったと思う。

 その番組では、野田鶴声社のホイッスルが、世界の多くのスポーツシーンで高い評価を得ていることを知った。サッカーのワールドカップをはじめ、バレーボール、ラグビー、バスケットボール、水泳など、世界の檜舞台で愛用されているのだ。

 1919年(大正8年)創業の野田鶴声社は、もともとはハーモニカ製造からスタートした会社だが、戦後、ホイッスル製作を主に手掛けてきた。1970年代、ヨーロッパで開催された見本市に出品すると、その品質のよさが着目され、またたく間にヨーロッパのサッカーシーンで使用されるようになった。熱狂的なサッカーファンの割れんばかりの歓声の中でも響き渡るホイッスルの音。これまで45カ国、1500万個以上が販売されている。まさに、世界に誇る逸品なのである。

 誰にも真似できない製品だけに値段は高い。さらに新興国で製造された安いホイッスルに押され、同社の輸出割合は減少してはいるものの、その人気は衰えていない。代表取締役の野田員弘さんはいう。

 「一生懸命によい物を作っても、ホイッスルは『鳴ればよい』という人もいる。コストがかかるうちの笛は価格が高いので、そんな人は安い製品を購入する。これはもう、どうにもならないことだと思います。ただ、うちの製品は東京・浅草の三社祭や大阪・岸和田のだんじり祭りでは、何年も使ってもらっていたり、ファンの方はおられるんですよ」(エンジニア応援サイト『Tech総研』)

 少し前には、同社の商品を購入したフランス人が台湾の業者に同じものを作らせ、それをフランスのサッカー協会に持ち込んだことがあるという。「うちの製品は高いから利益が出ないと思い、ほかで作らせたのでしょう。しかしサッカー協会の反応は、『何だ、これ?』だったそうです。分かってくれる人は、分かってくれる」

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