ときには「孤独な戦士」になれるか一流の働き方・最終回

一流の仕事人は、会社や組織においても「孤独な戦士」であることを恐れない。

» 2014年02月24日 10時00分 公開
[川北義則,Business Media 誠]

集中連載『一流の働き方』について

 本連載は、2013年11月26日に発売した川北義則著『一流の働き方』(アスコム刊)から一部抜粋、編集しています。

 なぜあの人の仕事は、いつもうまくいくのか? 一流は困難なときこそ楽天的である。「忙しい」は、二流の口グセ。「努力」は、他人に見せたときに価値を失う。仕事ができる人は、孤独を恐れない――頭角を現す人にはこのような条件を持っている。

 本書は、人気ベストセラー作家が「頭角を現す人」の究極の仕事術を39の条件にまとめ語り尽す一冊。あなたも「あの人のようになりたい」といわれる人間になろう!


 誰からも一流と評される人間には、いい意味でも悪い意味でも「あの人のことだから」と思わせる独自性が備わっている。

 一流の人間は、ときに驚くほど大胆で誰も思いつかないような発想をする。そういう生き方は、必ずしも周りの理解が得られないこともある。それどころか、手厳しい批判、無能呼ばわり、変人扱いの危険性もはらんでいる。だが、自分の信念や仮説、あるいは感性に基づいて、パイオニアになるのが一流なのだ。

 間違ってもらっては困るが、ただ他人と違っていればいいというものではない。能力も知性も人間性も凡庸以下の人間が、ただ目立ちたいがためにスタンドプレーで演じる「異端もどき」とはまったく違うものだ。一流の人間は「発想力の振れ幅」が大きいという特徴がある。ひと言でいえば、固定観念に縛られないということ。

 モーターサイクルの世界で、いま非常に高い評価を受けている大型バイクがある。ホンダの「NC700X」というバイクだ。

 「乗りやすくて、加速感もいい」

 そうほめるのは、小柄にもかかわらず、大型バイクをこよなく愛する知人女性だ。彼女の愛用バイクなのである。私自身、親の商売を手伝っていた若いころは「店の配達に必要だから」と親を言い含めて大型バイクを買ってもらい、もっぱら遊びに使っていたものだ。社会人になってからは乗ることもなくなったが、間違いなくライダー経験者の端くれだ。

 そのヒット商品の開発秘話と責任者の青木柾憲(まさのり)さんの一流仕事人ぶりを、月刊誌『WEDGE』のインターネット版が伝えていた(2013年8月15日配信)。

 「〈中略〉『コストさえ下げれば何をやってもいいのだろう』と勝手に解釈し、プロジェクトを立ち上げた。『好きにさせてもらう、という感じですよ』と、青木は悪戯っぽく笑う。とはいえ、数十人の技術者が参画するプロジェクトだけに、『コスト低減』だけではベクトルは定まらない。〈中略〉青木には『好きにできるというのに、多くのメンバーが既成概念に縛られている』と映った」

部下の大胆な発想、そして上司の決断と責任

 記事からの顛末を紹介しよう。

 ナナハン(750cc)クラスで、既存車より30%のコスト削減の新車の開発を指示されたが、製品コンセプトは固まらないままだった。どうしたものかと悩んでいた青木さんに「NC700X」の基本コンセプトのひらめきを与えたのは、1人の開発メンバーが酒席でつぶやいた言葉だ。

 「フィットのエンジンをパカッと切って半分にしたら、性能のいいエンジンができる」

 ご存じの人も多いと思うが、「フィット」はホンダの超ヒット商品だ。ハッチバック型の低燃費小型車で、2001年発売以来、これまで国内だけで200万台以上も販売された。海外でも「フィット」、あるいは「ジャズ」の名前で大人気である。

 排気量は1300ccと1500ccが基本。その半分なら650ccから750cc。たしかに「パカッと切って半分」というのは、開発を求められていたバイクの排気量である。

 誰もが酒席での冗談と思っていたのだが、青木さんは違った。酒席での言葉に妙に引っかかり、一晩考えた末、翌日には「パカッと切って半分」の発言者にエンジン開発を指示したのである。それが「NC700X」の誕生を導いた。

 「フィット」の低燃費直列4気筒エンジンをモデルに、2気筒エンジンとして「NC700X」に搭載したのである。これまでのホンダバイクとはまったく違う「乗りやすいのに加速感がある」バイクの誕生だった。

 青木さん自身、型破りのバイクだけに社内での酷評を覚悟していた。だが、こういう一流のエンジニアが許される会社の経営陣は、やはり違うらしい。ホンダなのだ。そして、そのほかの新モデルを尻目に商品化のゴーサインが出た。青木さんが開発したバイクは、試乗したバイク好きの社長から最高の評価を得たのである。

 ちなみに、ホンダの役員は全員、大型バイクを操る。バイクメーカーの矜持として、口だけや頭でっかちのタイプでは役員にはなれないということなのだろう。これが「NC700X」大ヒットの秘話である。

(写真はイメージです)

 先に述べたように、一流の仕事人とは「発想力の振れ幅」が大きく、固定観念に縛られないという頭の柔らかさを持っている。青木さんは、まさにこのタイプだ。ただの「デキる人」では、大きな仕事を成し遂げることはできない。安易な妥協や付和雷同しないことが一流の証でもある。

 ときに、会社や組織において、そうしたスタンスは孤立を招くこともあるだろう。その孤立を恐れない強い精神も求められるのだ。

 「『みんなが反対するのは、既成概念をはみ出しているから。むしろそこにヒットの可能性がある。だから私はみんなが反対することをやりたい』。さらに『最大の敵は、前例のないことを否定する社内の壁』とも言い切る」(同)

 一流の仕事人は、会社や組織においても「孤独な戦士」であることを恐れないのだ。

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