相談を持ちかけられたときは、相手に本音で話してもらう必要がある――。
それでは、どうすれば本音をしっかりと聞き出せるのでしょうか。ポイントは「相手の話に理解を示すこと」です。共感という言葉がよく使われますが、これが意外と難しい。共感を得ようとして、相手の意見に無条件に賛成してしまう「同感」になってしまっている人もよく見られます。例を見てみましょう。
若手社員: 来週、役員の前でプレゼンがあって……。気が重いんですよね……。
先輩: (何言ってんだよチャンスじゃん、バカじゃないの?)そうだよねー、気も重くなるよね。俺もそんなの言われたら、やっぱ気が重くなるし、断っちゃえば?
若手社員: (何この人。こんな無責任だっけ?)。
自分と相手はそもそも別の人間ですし、考え方やキャリアも違うので、変に同感するとかえって嘘くさいコミュニケーションになってしまいます。また、自分の意見と真逆のことを口にするのは、心中穏やかではありません。ここでいう「共感」とは、相手の感情に理解を示すことを指します。
若手社員: 来週役員の前でプレゼンがあって……。気が重いんですよね……。
先輩: なるほどね。役員プレゼン、気が重いのかぁ。
若手社員: そうなんです。まぁ、チャンスなんでしょうけどね……。
たったこれだけのことで、相手の考えを聞き出せることがあります。まずは相手の思いを肯定すること。これが大前提となります。少しでも否定される可能性があると感じさせれば、相手は心を閉ざしてしまうでしょう。その上で、相手の感情が見えた部分について「こういう気持ちなんだね」と感情を理解したことを伝えるのです。
ちなみに、共感と似たテクニックとして「要約」というものあります。これは相手の話の内容をまとめ、そのまま返すという手法です。上記の例では、このようになります。
若手社員: 来週役員の前でプレゼンがあって……。気が重いんですよね……。
先輩: なるほどね、来週役員プレゼンがあるのかぁ。
若手社員: えぇ、そうなんです。
要約は話を聞き出したり、信頼関係を築くのに有効です。話の内容をまとめるので、特に正しく内容を聞き出したい時に使うとよいでしょう。
しかし一方で、話が進んでも、話し手の安心感を得るまでには至りにくく、本音を引き出すには力不足な面も否めません。しっかり話を聞いているけど、本音が聞き出せない……と思ったら、話し手の感情面に意識を向けてみてください。本音を引き出すポイントをまとめると、
このときに「役員プレゼン、気が重いんだね」と言葉だけで伝えるのではなく、表情やしぐさ、口調といった行動も整えて伝えてください(詳細は「相談しない部下も悪いが、相談されない上司も悪い」に書いてあります)。
「そんなのこうしたらいいじゃないか」という解決策も、「大変だったね〜」という思ってもいない嘘も要りません。まずは、相手の話に耳を傾けて感情に理解を示し、本音を引き出すことに注力しましょう。解決策は本音に対して提案した方が的確ですから、“二の次”で十分なのです。
Q:若手社員の相談を聞いているのですが、うまく相手の考えを聞き出しきれていないように思います。何かいい方法はあるのでしょうか。
A:いきなり解決策を提示しないようにしましょう。相手の話にしっかり理解を示し、特に感情に理解を示す「共感」を活用するのが第一歩です。
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/ヒューマン・スキル講師
大手システム販売会社にて販売促進、大手IT系人材紹介会社にて人材育成、通信キャリアでの障害対応、メーカーでのマーケティングに従事。さまざまな立場でさまざまな人と仕事をし、「ヒューマン・スキルに長けている人間は得をする」と気づく。提供する側にまわりたいと、2007年より現職。IT業界を中心に、コミュニケーション・ファシリテーション・リーダーシップ、フォロワーシップ、OJT、講師養成など、年間100日以上の登壇及び、コース開発を行っている。日経BP「ITpro」で、マナーに関するクイズ形式のコラムを連載中。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.