全社員にストレスチェック義務化――労働安全衛生法が改正で企業はどうすればいい?

労働の安全と衛生についての基準を定めた法律が改正されます。これまで企業は従業員に受けさせていた健康診断と同様に、ストレスチェックも受診させる義務が生じます。

» 2014年06月03日 10時00分 公開
[神谷学,Business Media 誠]

 従業員のストレスチェックが義務化されるのをご存じでしょうか? 現在、国会で審議されている「労働安全衛生法(安衛法)」の一部改正が成立すると、多くの企業で従業員へのストレスチェックを行うことが義務化されます。人事部門や総務部門の担当者は、どのような準備をしておくべきでしょうか。

2014年6月の法改正のポイントは?

 主なポイントは以下の2つです。なお、この改正法案が可決されると、施行は公布後1年半以内です。2014年6月に成立し公布されれば、遅くても2015年末までには改正法がスタートします。

  1. 従業員50人以上の事業所は、年1回、従業員に対してストレスチェックを実施することが義務付けられる(50人未満の事業所については「努力義務」)
  2. 事業所はストレスチェックの結果を従業員に通知し、従業員が希望した場合には医師による面接指導を実施する

 厚生労働省は、ストレスチェックの対象者を「基本的に健康診断の対象者と同様と想定している」とコメントしています。労働安全衛生法第66条、労働安全衛生規則第44条では、「事業者は、常時使用する労働者に対し、一年以内ごとに一回、定期に(中略)医師による健康診断を行わなければならない」と定めています。

 ちなみに、アルバイトスタッフについては、その人が「常時使用する労働者」に該当するかどうかで判断します。それは、「契約期間1年以上」「労働時間数が所定労働時間の4分の3以上」のいずれも要件を満たす場合(平成19年10月1日基発第1001016号通達)です。

 さて、「どのようなストレスチェックが必要になるか」については、改正成立後に厚生労働省がガイドラインを示す予定です。

 筆者が得た情報によると、「イライラしている」「ひどく疲れた」「不安である」といったストレス反応(ストレスが体に与えている影響)の有無に加えて、「非常にたくさんの仕事をしなくてはいけない」「仕事の進め方に裁量がある」といったストレスの原因となる職場環境や仕事の負荷についての設問も盛り込む必要があると想定されています。

ストレスチェックの結果、企業が実施しなければいけない対策は?

 このようなテストを全従業員が、Webや質問票を使って、年に1回のペースで受診しなければなりません。もしも、ストレス反応が強く出る人がいれば、医師やカウンセラーとの面談を勧めなければなりません。また、職場環境に問題があるという分析がなされれば、経営者はその結果を職場改善に生かすことが求められます。

ストレスチェック義務化 (出典:厚生労働省資料をもとにアドバンテッジリスクマネジメント作成)

 これまでもストレスチェックが企業で行われている例はありましたが、主に大企業や余裕のある会社に限られ、その広がりは限定的でした。今回の義務化により、取り組みは一気に広がり、特にこれまで立ち遅れていた中小企業でのメンタルヘルスケアの取り組みが進むことが期待されます。

 企業の課題としては、ストレスチェックを行う運用体制、面談する医師の確保などが挙げられます。行政やメンタルヘルスケアを専門に行う会社などが支援する仕組みを整えつつありますので、人事担当者は情報収集を急いだほうがよいでしょう。

 従業員のストレスは、必ずしも職場だけからもたらされるものではありません。自身の悩みや家庭の問題など、プライベートな問題を抱えている人も多いと思います。働く人のメンタル面での変調を、人生の中でも長い時間を過ごす会社が気付いてあげられる体制を整えることは、会社としての安全配慮義務、生産性の維持という観点にとどまらず、社会的存在である会社の責務としてとらえることが必要です。

 →ストレスチェック義務化は、新たなリストラのツールとして悪用されないか?(参考記事)

著者プロフィール:神谷学(かみや・まなぶ)

アドバンテッジリスクマネジメント 取締役 常務執行役員

東京大学法学部卒業、文部省(現文部科学省)入省。2001年にアドバンテッジリスクマネジメント入社。ストレスチェック義務化対応サービスに携わる。2014年4月より現職。


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