インタビュー
» 2014年07月04日 11時00分 UPDATE

仕事力を高める会計の「知恵」:数億円の発注が“ぬか喜び”になることも――営業が知っておくべき会計の「落とし穴」

「数億円の発注が来た!」――こう聞いて、すぐ舞い上がってしまうようでは社会人失格かもしれない。会計の世界には、知らないと痛い目にあうさまざまな“落とし穴”があるのだ。

[房野麻子,Business Media 誠]

対談「仕事力を高める会計の「知恵」」について

『江戸商人・勘助と学ぶ 一番やさしい儲けと会計の基本』 『江戸商人・勘助と学ぶ 一番やさしい儲けと会計の基本』(眞山徳人/日本実業出版社)

仕事をしていく上で、「もうかったかどうか」を意識するのは重要なこと。つまり、仕事に関わる“数字”をつかんでおくことが大事です。ただ、会社が社員それぞれの仕事の成果をまとめて“数字”で表すために用いる「会計」について学ぼうとしても、その専門性の高さが壁となり、ついつい及び腰になりがちです。そんな会計ともうけのしくみを、江戸時代の丁稚を主人公にストーリー仕立てで分かりやすく解説するのが、書籍「江戸商人・勘助と学ぶ 一番やさしい儲けと会計の基本」です。

この本の著者である公認会計士の眞山徳人氏と、会計に関する著作を含め30冊以上を世に送り出す公認会計士の平林亮子氏が、社会人なら知っておきたい会計の知識を楽しみながら身につける方法を4回にわたって紹介するのがこの対談。営業パーソン、バイヤー、マーケッター、生産管理担当など、管理部門以外の人にも即効性のあるヒントがいっぱいです。(聞き手:『江戸商人・勘助と学ぶ 一番やさしい儲けと会計の基本』編集担当 蔵枡卓史氏)


納品したからといって安心するべからず

―― 商品を納品したからといって安心せず、売掛金を回収するまで気を抜いてはいけない――ということも、新社会人なら知っておきたい会計の知識ですよね。本書の中では勘助が、自分の出した損を挽回するために新しいお客さんを増やそうとして、飛び込み営業をかけます。その結果、着物は売れましたが、売掛金を回収しようと客先に行ったところ、すでに大坂に引っ越したあとで、さらに損を増やしてしまいました。

Photo 眞山徳人氏

平林氏: 商品が売れても代金を回収できず、経理と営業スタッフがモメるというのは、わりとよくあることなんです。

眞山氏: 経理の人たちは売掛金の「年齢表」というものを作ります。これを作ると売掛金がいつ発生したものかが把握できます。裏を返せば「ずっと入金されていない売掛金」を見つけることができるわけです。

 営業スタッフが大変な思いをして開拓した新規顧客が、実は金払いが悪かった――といったこともよく耳にしますね。だからこそ、“買ってくれた”というところだけで安心せず、お金を払ってくれるところまでを確認する必要があるわけです。入金日を確認せずに仕事を受けてしまうと、資金がショートしたり、それを避けるために運転資金を借りることになれば、金利もかかってきます。

―― 普段の生活では「入金は現金で」というのがほとんどですから、“入金に何カ月もかかる場合がある”というのが想像できない人もいるかもしれませんね。売掛金の回収は業種によってルールがありますし、そのルールを知っていることは大切ですね。

平林氏: (眞山さんに向かって)会計士としていろいろな企業に行ってみて、業種によってこんなにも支払いサイト(支払日までの猶予期間)が異なることに驚きませんでしたか?

眞山氏: たしかに驚くこともありました。長いところでは6カ月という案件もありましたね。

Photo 平林亮子氏

平林氏: 最近は手形取引が減っているのであまり見なくなりましたが、以前は売掛金で数カ月引っ張った後に、さらに手形で数カ月引っ張るということもありました。つまりヘタをすると、商品を販売したあと1年近くお金が入ってこないということもあったのです。

 また、売掛金の回収とは少し違う話ですが、不動産業が潰れる時の理由は大抵、代金を回収するまでの期間が長いことにあるんですよね。建て始めてからお金が入るまでが長期になる傾向があるので、建てている間に資金がショートして潰れてしまうのです。

 こうした例を見ても、“お金がいつ入ってくるか”ということは、常に意識しておいたほうがいいことが分かります。大きな商談ほど気をつけるべきですね。

 また、突然数億円分の発注があったとしたら、喜ぶべきことのように思えますよね。でも、“何億円もするものが売れた”ということは、“何億円分もの仕入れが必要になる”可能性があるわけです。もしもこの会社の資金が数千万円しかなかったとしたらどうなるでしょう。いくら売る約束を取り付けてきても、資金がなければ仕入ができず、売るモノを用意できなければ契約を果たせません。実は厳しい状況かもしれないわけです。

眞山氏: ほかにも、取引先の素性や評判について注意深く見ておく必要がありますね。

―― どうやって調べるのですか?

眞山氏: 東京商工リサーチなど、企業のデータベースを持っているところに情報を照会する方法が一般的です。そこに書かれている情報をチェックして、取引するかどうかや、取引の条件を考えます。

平林氏: 大きな会社であれば、新規の取引先の信用調査をしたり、登記簿謄本を入手して確認しますね。ペーパーカンパニーでも登記簿は作成できてしまうので、それが取引しても問題ないことの証明にはなりませんが、いろいろと分かることがあります。

 例えば社長の名前が分かるので、どれくらい代替わりしているのか、ニュースで話題になったかどうかを確認できます。また、上場企業であれば決算書や有価証券報告書が公開されているので、チェックするといいでしょう。

ビジネスモデルを見抜く方法

―― 本書も終盤になると、勘助が木綿の浴衣の買い付けを任されるようになります。浴衣がどうやって作られているのかを知り、原価のしくみを理解していきます。

眞山氏: 製造原価は本書にあるとおり材料費と労務費、経費を合わせたものです。ただ、数字で考えるだけでなく、“現場を見る”こともおすすめですね。

 例えば、最近流行っている工場見学はいいですよ。実際に行って製造の過程を見ると、製品は材料費や労務費が積み重なってできている――ということがイメージできます。ただし、女性は化粧品工場は見ない方がいいでしょうね。

平林氏 “化粧品とジュエリーは製造過程を見るな“といわれていますね。原価があまりに安いので、もう二度と買えなくなってしまう(笑)。

眞山氏 ビール工場はプロセスがよく見えるし、場所によっては試飲もできるので(笑)おすすめです。発酵に時間がかかるので、仕掛品(製造行程の途中にある在庫)のイメージがしやすい。少し専門的な話ですが、発酵に要する時間と仕掛品の在庫の保有期間はだいたい同じになっているだろうか?ということを考えたりとか、いろいろと見えてくることがありますね。

平林氏: 工場見学に行くと、ビジネスモデルが見えてきますね。“ビジネスモデル”というと複雑なものを想像しがちですが、どのように作られ、どれほどの人の手が介在し、どこで売られているかを考えるだけでも分かることはありますよ。

―― 成長した勘助は、店頭でものを売るという方法を考えたり、お直しの商売を取り入れたりしていきます。失敗から学んだからこそ、新しい提案ができたのだと思います。

眞山氏: 僕も、“すぐ決断して動いてしまう”タイプなので、勘助に近いですね。そういえば、諸掛(しょかかり:運送費などの費用)を考えずに反物を仕入れてしまった勘助と同じような失敗をしたことがあります。オークションで商品を落札したときに、「かんたん決済」が良さそうだからと使ってみたら手数料が載っていた、ということがありました。買ってみて気付くこともあるんですよね。

―― 「すごく安い!」と思って買ったら、商品それぞれに送料がかかっていた――ということもありますね。商品が1円でも、こんなに送料がかかるなら警告してほしいと思います。

平林氏: それもまた1つのビジネスモデルですよね。「どうして1円なんだろう」「なんで本体が0円なんだろう」と考えてみるといいですよ。

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