「いいからやれ!」が通じない時代、上司に必要とされるスキルとは?上司はツラいよ(2/2 ページ)

» 2014年08月21日 08時30分 公開
[田中淳子,Business Media 誠]
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疑問を持たずに上司に従っていたのはなぜ?

 今の40〜50代が目的など聞かなくても仕事が“できた”のは、「上司の言う通りにしていればよかった」時代だったという理由があるように思う。昔は、ピラミッド型組織の上部――つまり“偉い人”ほど多くの経験と知識を持っており、彼らの判断は“正しい”と多くの場合信じられた。納得感があったのである。

 しかし今は、偉いからといって多くの知識や経験を持っているとは限らないし、そもそもハイスピードで変化する状況に対して、彼らが持っていた知識や経験が通用しないケースも増えた。結果、上からの指示が必ずしも“正しい”もの、納得感があるものではなくなったのだ。上司も試行錯誤しながら指示を出すので、仕方がない部分があるのだが、経験の浅い若手はこれに気付けないことも多い。

 一方の若手も、上司の言うことに素直に従いづらくなった事情がある。終身雇用文化が崩れつつある今、もはや「上司にしたがっていれば安全、安泰」などというイメージは消えた。上司に従うこと“それ自体”に意味を見出せなくなれば、自分の「今」の仕事に価値を見出し、集中して取り組むことになる。

 となれば、自分の行動の「目的」や「意味」を重視するのは自然な流れだろう。“ムダ”なことを嫌い、自分の行動に対する他者からのフィードバックを重視するというメンタリティー(これもまたよく言われる“若者像”だが)も影響しているかもしれない。

 イマドキの若手は、仕事を長期的に見るより、1つ1つの仕事を単発で短期的に見る思考があるのだろう。こう言うと「石の上にも3年」などという言葉で、部下に“ガマン”を説く上司もいると思うが、これはこれで、健全なモノの捉え方だと私は思うのだ。

「いいからやれ!」では通じない時代に必要な“上司力”

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 昔の上司は“偉かった”かも知れないが、今の上司は“偉いポジション”というよりは“調整(マネージ)をする役割”という側面が強くなった。上から下に命令を下す、部下はそれを忠実にこなすという図式は成り立ちづらくなっている。

 今、上司が考えるべきことは部下がいかに気持ちよく、やりがいを持って仕事に取り組める環境を作るかだ。自分の権威や権限(ポジションパワー)で人を動かすのではなく、やる気を持って取り組むよう人に働きかける――そういう意味では、昔の上司より今の上司の方が複雑なコミュニケーションスキルやテクニックが求められるのかもしれない。これが現代の上司の「ツライ」ところだ。

 力を使わない分、コミュニケーションには時間がかかる。「いいからやれ」であれば、3秒ですむが、「この仕事は○○を目的として、こういう事情があって、あなたに取り組んで欲しい理由はこれで……」と3分くらい費やして説明する必要が出てくる。そういったロジックを組むのが苦手という人もいるかもしれない。

 だが、ひとたび理由や事情、目的を理解すれば部下はちゃんと動く。事前説明に時間や手間はかかるものの、納得して行うぶん成果も高いし、やらされ感も少ない。

 とはいえ、プレイヤーも兼ねる傾向にある“現代の上司”は忙しい。事細かに説明できないこともあるし、部下が目的を理解していると思いこんで説明を省く可能性だってある。たまにやらされ感を持ちながら仕事をして、ブーブー文句を言う人がいるが、不満があるなら自分から上司に「これは何が目的なのか?」と聞けばいいだけの話だ。そのとき嫌な顔をせず「ごめん。説明していなかったっけ? 目的はね……」と対応するのが上司の役目である。

 だからこそ、上司は自分自身で「何のために」「何を目的としているのか」を常に意識しておく必要がある。目的や理由が見出せないのであれば「本当にそれはする必要があるのか」と自問自答し直すこともまた必要だろう。部下の倍、いや3倍ほど思考し、試行錯誤を繰り返し、納得感を高めること。これが今の上司に求められるスキルなのかもしれない。

著者プロフィール:田中淳子

田中淳子

 グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。

 1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。


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