信長をうならせた、利休の「粋なはからい」とは?「気がきく人」の習慣(3/4 ページ)

» 2014年08月29日 11時00分 公開
[上田比呂志,Business Media 誠]
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信長をうならせた、利休の粋なはからいとは

 営業の仕事の締めくくりは、始末をすることです。1回目の商談では、仕事の話をしないで帰るのが、始末の仕方。なぜ、そうするかと言えば、余韻を残すためです。

 あの人は仕事で来たはずなのに、私の話を楽しそうに聴いて帰ったな、と。お客さまにそう思ってもらえれば、「どうせ何かを売りに来たのだろう」という予想に反して、想像を超えた接し方ができたと言えます。

 そして、1回目の訪問でお客さまのことをよく観察する。部屋の雰囲気や調度品、言葉の端々から伝わってくる好き嫌い――。そうした要素からお客さまの趣味趣向をつかみ、次回は深く調べ、勉強し、お会いする。すると「私の好みが、なんで分かるの?」という驚きにつながります。

DVD『利休にたずねよ』(キングレコード)

 想像を超えると言えば、映画『利休にたずねよ』でこんなシーンがありました。

 若き日の利休が、天下布武(てんかふぶ)を掲げ、飛ぶ鳥を落とす勢いの織田信長を訪ねるシーンです。信長の居城には異人も含め、各地から献上品を持った人々が集まっています。その場で信長が「おもしろい」と思ったら、世間での献上品の価値とは関係なく、法外なほうびが出るという場面でした。価値を決めるのは信長で、いかにもお宝という品物には見向きもしません。

 利休は日が暮れ始めたころになってようやく信長の城へやってきます。待ち構えていた門番が「遅いじゃないか」となじると、利休は「まだちょっと早いくらいです」と答え、皆のいる天守閣に上がっていきます。

 利休の手にあるのは、地味なお重ひとつ。周囲の人々は粗末な献上品を見て、「なんだあれは」とあざけりの笑みを浮かべています。

 そんな中、利休は堂々とした立ち振る舞いで天守閣のふすまをスッと開き、お重のふたを取ると、水を注ぎ込みました。そして、縁側にお重を置き、信長に中を見るよう促しました。

 すると次の瞬間、信長は、手元の金すべてを利休に与えたのです。

 あぜんとする人々が、信長の下がった後、お重をのぞき込むと、内側の飾り絵の上に月が映り込んでいました。お重の中に広がる美、その想定外の美しさ――。そして、月が浮かぶ時間を見計らった利休の仕事に対して、信長は多大なほうびを与えたのです。

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