それに比べて「ノンクリエイタータイプ」は、商品からコツコツ考えて、最終的な表現にたどりつきますので、そんなにジャンプはないのです。
もちろん、多少のジャンプはないとCMとして目立ちませんから、まったくないというわけではないのですが、そんなにみんながびっくりするようなジャンプはない。
マサイ族のジャンプがクリエイタータイプだとするなら、せいぜいバレー部の中学生のジャンプくらいのものでしょうか。
私のつくっているCMも、みんながびっくりするような斬新な表現というのはまったくないです。例えば、缶コーヒーなら、「働いたあとに缶コーヒーを飲んで少し元気になる」という、超・オーソドックスな表現で描いています。ジョージアの「明日があるさ」もBOSSの「宇宙人ジョーンズ」も、一見まったく違うように見えるかもしれませんが、結局はそれを描いています。
で、そういうふうにジャンプ力が低いと、悪いことばかりかというとそうでもなくて、「その商品らしい表現になっている」とか、「その商品が身近に感じられる」とか、そういうことは、むしろクリエイタータイプの人の表現より実現しやすいかもしれないのです。あくまでも商品発想ですから、商品と近い表現には必ずなっている。
また、ひとつひとつのCMが、それぞれの商品に合わせた表現で描かれますから、クリエイターの作風みたいなものは出にくくなります。
「宇宙人ジョーンズ」と「こども店長」と「マルちゃん正麺」って、どれも私が企画したCMですが、共通する作風とかって感じられませんよね? 人によっては少しは感じるかもしれませんが、少なくとも自分では分かりません。
いずれにしても、そんなにはっきりした作風というようなものは「ノンクリエイタータイプ」のクリエイターには出てこない。それはそれで、ちょっと寂しいような気がしなくもないんですが、プロのプランナーとして、そっちのほうがかっこいいという考え方もあると思うんです。まあ、やや負け惜しみのような気もしますが……。
というわけで、私の企画のやり方をあえて言語化するなら、あくまでも商品発想で、コツコツとその商品の存在理由から考えていく。そして、その存在理由をちょっと誇張して描けばギャグCMになり、等身大で描けば共感CMになったりする――という、とてもオーソドックスなやり方でやっています。
福里真一(ふくさと・しんいち)
ワンスカイ CMプランナー・コピーライター。1968年鎌倉生まれ。一橋大学社会学部卒業。92年電通入社。01年よりワンスカイ所属。
これまで1000本以上のテレビCMを企画・制作している。主な仕事に、吉本興業のタレント総出演で話題になったジョージア「明日があるさ」、樹木希林らの富士フイルム「フジカラーのお店」、トミー・リー・ジョーンズ主演によるサントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」、トヨタ自動車「こども店長」「ReBORN 信長と秀吉」「TOYOTOWN」、ENEOS「エネゴリくん」、ダイハツ「日本のどこかで」、東洋水産「マルちゃん正麺」などがある。
ACC(全日本CM放送連盟)グランプリ、TCC(東京コピーライターズクラブ)グランプリ、クリエイター・オブ・ザ・イヤー、など受賞。その暗い性格からは想像がつかない、親しみのわくCMを数多くつくりだしている。
著書に『電信柱の陰から見てるタイプの企画術』(宣伝会議)がある。
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