とはいえ、今、そうぼやいている上司や先輩もまた、若手時代には「困ったものだ」と言われていたはずです。なぜ、研修までしながら報連相の文化はうまく定着しないのでしょうか。
それは多くの企業で当たり前と考えられている報連相に、大きな誤解があるからです。
従来の報連相は、部下から上司に対して行うものだと考えられています。多くの上司は、部下から報告が上がってきて初めて問題に気付き、対処しようとする。
しかし、この下から上への報連相は、組織の中に縦社会を作っていくだけです。
仕事をするたび、報告、連絡、相談をしなければならない若手や部下は、徐々に上司の顔色をうかがって動くようになります。
先程のコピーの取り方で言えば、上司が「アンケート用紙は評価順に並び替えてくれ」と指示しなければ部下が動かない。そんな関係が作られていってしまうのです。これでは会社や組織の発展につながりません。
その点、ディズニーでは報連相が、上から下へと伝わっていく仕組みになっていました。上司が部下を気遣い、現場の最前線に立っているキャストが働きやすい環境を作るために報連相が使われているのです。
一般的な報連相であれば、「分からないことがあるときは部下から相談しなさい」となります。しかし、ディズニーでは現場のリーダーたちが、上からの報告、連絡、相談をかみ砕き、経験からくるアドバイスを添えて、キャストに伝えていくのです。
例えば、本日の予想来場者数が6万人という連絡があったとき、ピーク時のパーク内はどういう状況になるのか。そのとき、受け持っているエリアではどんなことが予測されるのか。そこで発生するであろうハプニングについて、リーダーたちが事前に多くを伝えていきます。
なぜなら、最前線で働いているキャストが一番困るのは、「何をしたらいいのか分からない」という状況になることだからです。パニックに陥ってから上司に「困りました!」と報連相していたら、とても多くのゲストにハピネスを届けることなどできません。
つまり、リーダーが自分たちのお客様のことを考えているからこそ、部下を気遣うことができるのです。そして、部下は日頃から気遣ってもらっているからこそ、上司に対しても気遣いを返そうと思うようになるのです。
これは三越でも同じでした。
私が新人時代、三辺さんという上司がいました。催事の前など、私たちが職場に残って残業していると、三辺さんはいったん外出してすぐに戻り、「みんな、お疲れさま」と言って、夜食のあんぱんを置いていってくれるのです。
この気遣いだけで、私たちはがんばろうとやる気を出し、三辺さんを支えようと思ったものです。重要なのは、「俺は君たちのがんばりに気付いているよ」というメッセージを伝えること。
現場にこういう気遣いのできるリーダーがいれば、組織は円滑に動いていきます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.