真の教育とは、知識を詰め込むことではない。子どもたちが自分自身で考え、判断し、伸びていく力を育てることだ。
本連載は、長野真一著、書籍『「考える」力をつくる30のルール』(アスコム)から一部抜粋、編集しています。
少子高齢化に年金制度の崩壊、いじめ、災害――。問題が山積みの現在の日本、私たちはこの困難の時代に生き延びなくてはなりません。
各界で活躍する一流の講師たちが、東北の未来を担う若者たちに「生きる力、考えるヒント」を授けるNHKのEテレ番組「東北発☆未来塾」。そのなかで、講師たちが語った珠玉のひと言が「ゴールデンルール」です。
「コンセプトは机の上で考えるな。日常に落ちている」(箭内道彦)
「人の意見をまずは肯定しよう」(山崎亮)
「どこでも使える文言に、人をひきつける力はない」(星野佳路)
これからを生き抜くために、何を考え、何をすべきか。本書では、番組内で紹介した自ら未来を切り拓いてきた人たちの30ゴールデンルールをまとめました。アイデアを育て、人とつながり、困難に打ち勝つ――。そうした力をつけて生きるヒントをつかんでください。
教育とは、子どもたちを少しでも理想に近づけること。だから、学力を引き上げる、跳び箱を6段跳べるようにする、というように考えがちだ。それはそれで間違いではないかもしれない。
しかし、真の教育とは、知識を詰め込むことではない。子どもたちが自分自身で考え、伸びていく力を育てることだ。そのためには、自分を肯定できる環境を作ることが欠かせない。
「釜石の奇跡」という言葉がある。
東日本大震災の時に、釜石の小中学生がとった行動を称して言う言葉だ。
震災の瞬間、釜石小学校の子どもたちのほとんどは、地震から30数分後に津波が押し寄せてくる場所にいた。放課後で、多くの子どもたちは親とも先生とも一緒にいなかった。
それぞれ1人で、あるいは友達と遊んでいた。それにも関わらず、地震が起こった後、子どもたちは自分で判断し、避難した。そして184人全員が大津波から逃れることができた。
なぜ、子どもたちは行動できたのか。そのキーワードは、“自己肯定力”にある。
釜石小学校の校歌には自ら考え行動し、力強く生きることの大切さがうたわれている。人から命令されるがままに行動するのではなく、自分で判断する。そのためには、自分の考えを肯定できることが重要だ。
教育評論家の“尾木ママ”こと尾木直樹さんも、その大切さを次のように語る。
「教育の中で、自己肯定感ほど大事なものはないんです。自己肯定感があれば、他者にも優しくなれるの。日本の学校の多くの先生は、人に優しくすれば自分にもはね返ってくる、みたいなとらえ方をするんですが、一番大事なのは自分なの。自分の命を守ろうとしない子が、お母さんやおばあちゃんの命は守れないんです」
自分で決める。日本の教育では、その力を育てる機会が少ない。ついつい教え、覚えさせ、誰もがたどり着く正しい答えを求めがちになる。
一方で、評価のあり方は「正しい答え」を満点とする減点方式が多い。自分で考えて導き出した判断も、あらかじめ準備された正答から外れていれば、評価されない。
これが長年にわたる、日本の教育における弱点ともいわれている。
自分で決めて行動する。良い結果が出れば「自分でやり遂げた」という満足感が得られ、次も自分で決断したくなる。結果が悪ければ反省し、次こそは成功させたいという欲が出て、もう一度自分で決断したくなる。
この繰り返しで自己肯定感が生まれ、自信を持って判断し行動できるようになる。
学校教育だけでなく、社会に出てもそれは同じだ。
自己肯定の感覚を持ち、自分の下した決断に自分で客観的評価を下しながら次に進める人は、放っておいてもどんどん伸びる。
そうした力を、子どものころに養っておかねばならない。
長野真一(ながの・しんいち)
1989年、NHK入局。初任は京都放送局。過去の主な担当番組「堂々日本史」「その時歴史が動いた」「英語でしゃべらナイト」「リトル・チャロシリーズ」「トラッドジャパン」など。
震災直後に、東日本大震災プロジェクトの専任となり、2年間被災地支援の番組やイベントなどを実施する。「東北発☆未来塾」や「復興支援ソング・花は咲く」のプロデュース、「きらり東北の秋」や「ただいま東北」のキャンペーンなどを担当。
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