全従業員のストレスチェック義務化でメンタル不調者は減るのか?【新連載】700万人メンタル不調時代に効く処方せん(3/3 ページ)

» 2014年09月30日 08時30分 公開
[神谷学,Business Media 誠]
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ストレスチェック制度が抱える問題点

 さて、このストレスチェック制度ですが、いくつか問題点もあります。

 1つ目は、高ストレス者の面談について、本人が希望しないと実施されない点です。先ほど述べたように、高ストレス状態は本人にはなかなか自覚できないものです。テストで要注意という結果が出たとしても本人が「自分は大丈夫だ」と思って何のアクションもとらなければ、早期発見の意味は薄れてしまいます。

 例えば、高ストレス者に対してはストレスチェックの結果ととともに仕事のやり方を見直すことや、カウンセリングや面談に行くことを促すメールや手紙を医師や保健師の名前で送ることにより、行動を促すことが考えられます。

 2つ目に、医師(産業医)との面談を会社(人事)を通して申し込むという点も相談に対するハードルを上げそうです。その人のストレス原因が会社の職場環境に起因する場合などは、人事と連携して対応する必要がありますが、ストレッサーとしてはプライベートに関するものなど職場外の要素も多いのです。

 そもそも人事に自分が高ストレスであることや相談内容を知られたくない人はかなり多く、結局、面談に至らないケースもあるでしょう。こうしたことに備えて、法令に定められるルートだけではなく社内で守秘義務を持ったカウンセリングルームを設置したり、EAP機関による相談窓口を用意したりするなど、なるべく安心して相談できるような環境を整えることが重要です。

センシティブな個人情報に対するセキュリティ確保を

 厚生労働省は、「法令は最低基準を定めたもので、各社の自主的な取り組みを尊重する」という方針を固めています。そのため、会社はその会社に合ったやり方を工夫してストレスチェックの実効性を高める必要があると思われます。

 また、運営上の問題としては、ストレスチェックの結果のセキュリティが保持されるのかということがとても重要です。先述したように、ストレスチェックの結果は本人の同意がなければ会社にも共有されず、会社から委託を受けた医師やEAP機関が保持することになります。この情報は極めて機微性が高いものであり、適切に扱うためには高度なセキュリティ基準をクリアした主体が当たる必要があります。

 ストレスチェック制度の最終的なゴールは、高ストレス者への早期対応と問題のある会社風土の改革によるメンタル不調者発生の未然防止です。働く立場からすれば、この機会を積極的にとらえることにより、自身の心の健康をあらためて振り返り、問題があれば立ち止まって休んだり、働き方を考え直したりするなど中長期的に元気に働き続けることができるために活用してほしいと思います。

著者プロフィール:神谷学(かみや・まなぶ)

アドバンテッジリスクマネジメント 取締役 常務執行役員

東京大学法学部卒業、文部省(現文部科学省)入省。2001年にアドバンテッジリスクマネジメント入社。経営企画を中心に、メンタルヘルスケアや就業障がい者支援などの分野で現在の事業の柱を作る。


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