トヨタ「ReBORN」が信長と秀吉になった理由困っている人のための企画術(1/2 ページ)

企画がうまくいくためは、あまり「自分だけでやる」ということに固執しすぎず、周りの意見をどんどん取り入れたほうがいい。もちろん、よくない意見は取り入れないよう見極めるのも企画のうちです。

» 2014年10月07日 11時00分 公開
[福里真一,Business Media 誠]

連載:困っている人のための企画術

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 この連載は書籍『困っている人のためのアイデアとプレゼンの本』(日本実業出版社)から抜粋、再編集したものです。

すごいアイデアを思いついて自信満々で発表したのにスルーされてしまった……。こういうケースは少なくありません。アイデアが支持され印象に残るかどうかは、内容の善し悪しに加え、段取り、流れやタイミング、そしてプレゼンのしかたなど、さまざまな要素に左右されます。

本書は、BOSS「宇宙人ジョーンズ」やジョージア「明日があるさ」などのヒットCMを生み出した著者が、アイデア出しとプレゼンの方法で困っている人のために書いた本です。

今でこそ多くの人気CMに携わっている著者ですが、「人とのコミュニケーションをとるのが苦手」と公言するように、実は著者自身がアイディアやプレゼンで「困っている」人でした。そんな著者が伝えるのは、

 ・「プレゼンがうまそう」という感じを出さない
 ・人は、自分にできることしか、できない
 ・説得しないで説得する

など、ダメな人、苦手な人、困っている人でも、自分なりのやり方を見つけられます。数々のほろ苦い経験をもとに、そのままま役立つ「アイデアの出し方」と「伝え方」を紹介します。


周りの意見をごくんと飲み込む

 「CMがうまくいくこと」

 これが何よりも大切です。ここでいう「うまくいく」とは、おもしろいとか感動的だとか、評判もよく、世の中で話題になったり商品が売れたりして、広告主も大喜び――みたいな状態です。

 そうなるために企画をする人は、あまり「自分だけで企画する」ということに固執しすぎず、いいCMになりそうなら周りの意見をどんどん取り入れたほうがいい。

 結局、CMがうまくいったときに得をするのは自分でもあるのです。もちろん、よくない意見は取り入れないほうがいいので、その見極めが一番難しいとも言えますが、その見極めも企画のうち、と思ってがんばってみてください。

 例えば、トヨタ自動車の「ReBORN」という企業CM。ビートたけしさんと木村拓哉さんが、震災後の東北をドライブする、というCMです。

 このCMが生まれたきっかけは、もともとサントリーが震災直後につくってオンエアした、「歌のリレー」というCMにあります。サントリーの契約タレント全員が集まって、『上を向いて歩こう』と『見上げてごらん夜の星を』を歌い継ぐ――という企画。

 通常のCMが流せない状況の中、ただCMを自粛するのではなく、きちんと被災した人たちを勇気付けるようなCMをオンエアしようというサントリーの思いから、まだ余震が続く中、すごい早さで制作し、オンエアしたものです。

 そして、そのCMに感動したトヨタの豊田章男社長が、「このCMをつくった人に会いたい」と話したそうです。それは誰かというと、前回紹介したクリエイティブディレクターの佐々木宏さんで、この2人が出会ったところから、トヨタの「ReBORN」はスタートしました。

TOYOTA ReBORN 第3話「宇都宮編」より(出典:TOYOTA)

 そういうことで、なぜかその企画を私が考えることになりました。「東北をドライブするCM」ということで、私が最初に考えたのは、たけしさんと木村さんは、松尾芭蕉と河合曾良(そら)の生まれ変わりである、という企画でした。

 つまり、かつて『奥の細道』が江戸時代の東北を描いたように、今度は生まれ変わった芭蕉と會良のふたりが、いまの東北をドライブし、被災して傷つき、でもその中でもなんとか復活しようとしている東北の姿を、記録するようなCMにしてみたらどうか、ということです。

 その企画を佐々木さんに見せたところ、「芭蕉と會良なんて、誰も知りませんけど」といわれました。「そんな地味な人たちが登場するCMは、誰も見たいと思いません」と。

 そして、「どうせ、歴史上の人物になぞらえるんだったら、信長と秀吉ぐらいしか、普通の人は知りません」と言いはじめました。

 そもそも佐々木さんは、「本を1冊、最初から最後まで読み切ったことはない」と豪語する人ですし、話をしていても、鎌倉時代の「蒙古襲来」と、江戸末期の「黒船来航」の違いがよく分かっていないこともあるくらいなので、かなり歴史知識もあいまいで、浅い人だとは思います。

 しかし、何かと知識が浅い人だからこそ、CMというより多くの人に届けないといけないものについて、正しい判断ができるとも言えるのかもしれません。そして、この企画のときも、「東北だから芭蕉と會良」ということで、理屈は合っていても世の中の多くの人はそれでは喜ばない、という鋭い判断をしたのです。

 実際に企画をしている私としては、「信長と秀吉は、東北とあんまり関係がないんだけどな」と思うのですが、確かに、歴史上の人物としてメジャーで人気もあるのは、芭蕉と會良より、信長と秀吉。そこで、人から言われたそのアイデアを、反発しないでごくんと飲み込んで、強引に企画を進めていったのです。

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