部下の“放置プレイ”が一番マズい――「コミュニケーション飢餓」の恐怖そのひとことを言う前に(2/2 ページ)

» 2014年10月09日 08時00分 公開
[岩淺こまきBusiness Media 誠]
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 この相談のあとAさんは、Bさんとのコミュニケーションを見直し、Bさんと働きやすい環境を作りました。以下にAさんが実践した“マイルール”をご紹介します。

1:定期的な1on1を実施する

 3カ月先まで週に1回、強制的に個人面談の時間を入れてしまう。話すことが特になくても、コーヒー片手に必ず集まることにしたそうです。

2:ランチの誘い方を工夫する

 Bさんも毎日一緒にランチへ行きたいわけではない。そして、Aさんも時には男同士で話がしたい。Bさんが好きなイタリアンに行くときだけ、「今日はイタリアンなんだけど、一緒に行かない?」と声をかけることにしたそうです。

3:帰社した時に一声かける

 外出先から戻ったときは「なんかあった?」と足を止めてきく。足を止めないとと言いづらいとのことでした。人が寄ってきて話が広がることから、「自動販売機の前で一息つく」ということも実践したそうです。

 もちろん、コミュニケーションの捉え方は人それぞれ。これが正解というわけではありませんが、Aさんが実践した工夫は、Bさんの不安を和らげるのに、とても効果的だったと言えます。

コミュニケーション“飢餓”の恐怖

 こうした「コミュニケーション不足」で起きる問題を説明する言葉として、心理学の世界に「ストローク(stroke)」という用語があります。これは「あなたはここに居ますよ」と、相手の存在を認める行為です。

 存在を認める、というとピンと来ないかもしれませんが、人間は他者からの言葉や身体的なふれ合いなどによって自分の存在を意識できるもの。存在を認めるという行為は、すなわちコミュニケーション全般を指していると言って差しつかえありません。もし、「ストローク」という概念が分かりづらければ、「コミュニケーション」に置き換えて、以下の話を読んでみてください。

 ストロークは「肯定的ストローク」と「否定的ストローク」の2つに分かれます。肯定的ストロークとは、相手に「自分は大切にされている」と思わせる行為を指します。具体的には、笑顔であいさつしてもらう、褒められる、一緒に喜んでもらう、きちんと叱られるといったものです。

 一方、否定的ストロークは、冷たくあしらわれる、怒られる、けなされる、話の腰を折られるなど、相手に「自分は大切にされていない」と思わせる行為を指します。もちろん、相手に否定的ストロークを与え続ければ、心理的に悪影響がありますが、それ以上に怖いのは、肯定も否定も少ない――“ストローク不足”の状態です。

photo 有能な同僚や部下が、急に病気になったり辞めたりする――もしかするとストローク不足が原因の1つかもしれません

 ストローク不足が進むと、相手はいわゆる“ストローク飢餓”状態になります。飢餓状態においては、相手は否定的ストロークでも得ようとして、失敗したり、問題行動をとったりする可能性が高まります。

 これは「ストロークが得られないなら、否定的でも構わないから欲しい!」という心の動きによるものです。人は、相手から何の関心も示してもらえないという“苦痛”に耐えられません。一昔前の“不良中学生”や、わざとお茶碗をひっくり返して怒られる子供を想像すると、分かりやすいでしょう。

 部下や同僚に対して気を使った“つもり”で、相手の自由にやらせたり、フィードバックを少なくしたという経験はありませんか? しかし、それは“裏目”に出る可能性もあります。

 あの同僚が反抗的なのも、失敗が多いのも、そして有能な部下が急に病気になったり、辞めたりするのも、ひょっとしたらストローク不足が原因かもしれません。そうならないためにも、肯定的ストロークを、こまめに与え続けることが重要なのです。

今回のまとめ

Q:コミュニケーションで失敗するのが怖く、同僚や部下とどのように接していいか分からなくなるときがあります。

A:コミュニケーション不足も、大きな“失敗”です。自分にとって苦がなく、毎日できるルールを作ったり、効果的な誘い方を工夫するといった手を尽くしましょう。それだけで自他ともに働きやすい環境を作れるケースも多いです。


著者プロフィール:岩淺こまき

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 グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/ヒューマン・スキル講師

 大手システム販売会社にて販売促進、大手IT系人材紹介会社にて人材育成、通信キャリアでの障害対応、メーカーでのマーケティングに従事。さまざまな立場でさまざまな人と仕事をし、「ヒューマン・スキルに長けている人間は得をする」と気づく。提供する側にまわりたいと、2007年より現職。IT業界を中心に、コミュニケーション・ファシリテーション・リーダーシップ、フォロワーシップ、OJT、講師養成など、年間100日以上の登壇及び、コース開発を行っている。日経BP「ITpro」で、マナーに関するクイズ形式のコラムを連載中。


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