場所や時間に縛られない ANAが目指す“働き方”の次のステージ(2/2 ページ)

» 2014年12月02日 10時00分 公開
[後藤祥子Business Media 誠]
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ANAがデスクトップの仮想化を選んだ理由

 ワークスタイル改革に着手する前、ANAは在宅ワーカー向けに、自宅から会社のPCにアクセスして仕事ができる環境を提供していたという。しかし、この方法では、家から使おうとしたときに“会社のPCの電源が入っていないと使えない”ことから、急な仕事に対応できないという声も挙がっていた。

 こうしたストレスをスタッフが感じることなく、場所や時間、デバイスにとらわれることなく働ける環境を構築するためにANAが選んだのが“デスクトップの仮想化”だった。

 「移動して働くことが多い部門が多いことから、まずはモバイルとクラウドを最大限に生かした技術を選ぼうと考え、仮想デスクトップを核とした取り組みをスタートさせた」(幸重氏)

 デスクトップの仮想化は、ふだん使っているPCのデスクトップ環境をサーバ上に置いて動かす仕組みのこと。Windows OSや仕事で使うソフトウェア、仕事のデータがサーバ上にあるため、スタッフは、いつ、どんなデバイスからでも“サーバ上のWindowsデスクトップ”にアクセスできる。クライアントPCから行った操作に対する処理はサーバ上で行われ、スタッフのPCには“操作結果”が送られてくることから、さほど高スペックではないPCやモバイルデバイスを使えるのも便利な点だ。

 ANAが選んだ仮想デスクトップサービスは、大規模導入で実績がある新日鉄住金ソリューションズのクラウド型仮想デスクトップサービス「M3DaaS@absonne」(エムキューブダース@アブソンヌ)。このサービス上に載っているデスクトップ仮想化ソリューションがシトリックスの「XenDesktop」だ。

 シトリックス製品を選んだポイントは、無線回線を利用する環境下でもストレスなく利用できる点だ。ANAのスタッフは、外出先から携帯電話網を通じて、フリーアドレスのオフィス環境からWi-Fiを通じて――といったように、無線経由で仮想デスクトップにアクセスすることが多く、こうした通信環境で快適に使える点が選択の決め手になった。

 2011年から導入の検討を始めたデスクトップの仮想化は、2年のトライアル期間を経て、2013年1月からシステムの構築を開始。3月からパイロット運用をスタートし、3000アカウントで運用を開始した。2014年時点のアカウント数は5000となり、2016年までに1万1000アカウントに拡大する計画だ。

 同社ではデスクトップの仮想化と併せて、2013年3月にはメールサービスをクラウド型のGmailに移行。2014年3月には固定電話をクラウド型ボイスコミュニケーションサービスに切り替え、PCとモバイルの電話を持っていれば、外出先でも自宅でも“職場で仕事をしているのと同じ環境”が整った。

Photo ANAのワークスタイル改革を支えるITソリューション

 この新たなワークスタイルは現場からの反応も上々で、「急な打ち合わせが入ったとき、作業を中断して外出しても、打ち合わせが終わったらその場で作業を再開できるので作業効率が上がった」「感染性の疾患にかかって出社できなくなったときに自宅から仕事ができて、ブランクを最小限にとどめられた」といった声が寄せられているという。

 その一方で、課題も見えてきた。業務イノベーションチームの吉元恭香氏は「(在宅勤務時には)上司のサポートを常に受けられるわけではないので、作業時間の配分や勤務管理など、社員の自立性が求められる」と話す。

ワークスタイル改革を実践するための3つのポイント

Photo ANA上席執行役員 業務プロセス改革室長の幸重孝典氏

 ワークスタイル改革を成功させたANAだが、ここに至るまでにはさまざまな苦労もあったという。1つは「社内の抵抗勢力」に対する対応だ。若手スタッフは新しい働き方に慣れるのも早いが、年配スタッフはなじんだ仕事のやり方をなかなか変えられず、理解を得るのが難しい。こうしたケースでは“経営トップの鶴の一声”が効くといい、改革を始める段階で経営トップに話を通しておくことが重要だと幸重氏は話す。

 2つめは、「導入前には、IT部門が徹底的に検証する必要がある」という点。徹底的に使った上で、これなら社内で展開してもいいと納得できて初めて社内で展開できるというのが同氏の持論だ。

 3つめは、「IT部門内の抵抗勢力」への対応だ。例えば今回のワークスタイル改革でも、過去に策定したセキュリティポリシーに縛られて“IT部門自身が身動きがとれなくなる”という状況が起こったという。ANAはこの事態に「ポリシーの徹底的な見直し」で対応。以前のポリシー策定時と今の環境はどう変わったのか、どこに重点を置くべきかを再検討した。

 最後は「使う人の身になって考える」こと。使う側の社員の声に耳を傾け、きめ細かくスピーディに対応することが、改革の成功につながるという。


 働き方を変えるということは、会社の文化を変えることにもつながる――。こう話す幸重氏は、これからも改革の手を緩めるつもりはない。今後はアカウントの全社導入を目指すとともに、グローバル展開も計画。「日本のワークスタイル変革の成功事例をベースにした上で、各国の通信環境や働き方を考慮しながら、それぞれの国にあったワークスタイル変革を進めていきたい」(幸重氏)。

 最近話題の安価なGoogle PC、Chromebookの導入にも「強い関心を持っている」と幸重氏。同社がChromebookの大規模導入で一番乗りを果たすかどうかに注目したい。

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