Evernoteを「発見の手帳」とする知的生産の技術とセンス(2/2 ページ)

» 2014年12月26日 05時00分 公開
[堀正岳, まつもとあつし,Business Media 誠]
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手のひらの端末から発見のすべてを引き出せる

 Evernote上の情報は、1つひとつが「ノート」と呼ばれる情報カードに近い形で保存されています。「ノート」にはタイトルが付けられますし、ノートを作成、あるいは編集した日付も記録されますので、梅棹先生(※)が提唱した「発見の手帳」の最低限の構造も実現できるのです。

(※)梅棹忠夫プロフィール:日本の生態学、文明学、民族学、情報学といったさまざまな学術分野で功績を残し、大阪万博の企画、その跡地に建つ国立民族学博物館(民博)の初代館長も務めた。『知的生産の技術』ほか、著書多数。(1920年6月13日―2010年7月3日)−−

 また、スマートフォン上のアプリを使えば、いつでもどこでも、発見があった瞬間にそれを文章にして、写真とともに瞬時に保存できます。写真に説明をつけることも、時間がない場合には音声で発見を吹き込むこともできます。

 そうした情報の蓄積が、ノートやカード、音声ファイルなどのようにバラバラになるのではなく、ここに集約しているというところが、Evernoteが「発見の手帳」として理想的である理由です。手の平の端末から、私が過去に体験した発見のすべてを引き出せるのです。

 Evernoteを開発している人たちは、このサービスを「第二の脳」――つまり記憶を拡張するサービスだと表現しています。Evernoteが記憶の代わりをするというよりも、放っておけば忘れてしまうものを投げ入れ、安心して忘れてしまうことを目指しているのです。これは梅棹先生が情報カードについて記述していたことと、はからずも一致します。

カードについてよくある誤解は、カードは記憶のための道具だ、というかんがえである。(中略)頭のなかに記憶するのなら、カードにかく必要はない。カードにかくのは、そのことをわすれるためである。わすれてもかまわないように、カードにかくのである。
(『知的生産の技術』28ページ)

 Evernoteも同様です。覚えておきたいからEvernoteを使うのではありません。必要があれば検索して呼び出せるようにするために、心の発見をそのまま、都合よく忘れるために記録するのです。

 老子は、その独特な空の思想を、「器はそれが空である分しか有用ではない」という言葉で表現しています。私たちの頭脳も同じです。すべてを記憶しようと努力するよりも、頭脳はいつ何時やってくるか分からない発見のために空けておくのです。

著者プロフィール:

堀正岳(ほり・まさたけ)

1973年アメリカ・イリノイ州生まれ。理学博士。北極における温暖化の影響評価と海洋観測を中心とした研究活動をするかたわら、「ライフハックは人生を変える小さな習慣」をテーマに最新のライフハックや仕事術、ツールなどをブログ「Lifehacking.jp」で紹介。Evernote ライフスタイル アンバサダー。ScanSnapアンバサダー。著書に『できるポケット Evernote 基本&活用ワザ 完全ガイド』(共著)ほか多数。

まつもとあつし

1973年大阪府生まれ。ジャーナリスト・プロデューサー。ASCII.jp、ITmedia、ダ・ヴィンチなどに寄稿、連載。万博公園・民博のそばで生まれ育つ。著書に『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書)、『LINE なぜ若者たちは無料通話&メールに飛びついたのか?』(マイナビ新書)ほか多数。東京大学大学院博士課程・DCM修士。


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