もう1つは、管理職になって権限が増えたからといって、“やりたいことをのびのびとやれるようになるわけではない”ということだ。
それは、ある企業の課長が新任リーダーたちを前に話した経験談からもうかがえる。
この課長もヒラ社員時代には「管理職になったらあれを変えよう、これに挑戦しよう」と、いろいろ考えていたが、いざ、管理職になると、自分が考えていたことの何割も実現できていないという。
課長になったら、業務フローを大幅に変えようと思っていた彼だったが、いざ管理職になって他部署の課長と会議で同席するようになると、想像以上に困難なことが分かった。自部署の業務フローを変えるためにはいくつもの部署との調整が必要となり、そこには政治的な力関係もあれば、部長や事業部長などさらに上の立場の人の理解を得る必要もあったのだ。
もちろん、いろいろと権限があったほうが“大きなこと”を実現するまでのプロセスは少なくなるかもしれない。しかし、権限がある分、ほかのミッションも増えるので、大変さは“結局は同じ”どころか、増す可能性も高くなる。
管理職になると、プレイヤー目線をマネージャ目線に変えて考え、行動することが求められる。そうすると、当然、世界の見え方も大きく変わる。その中で、自分の実力を知り、理想と現実のギャップを感じることもあるだろう。
新任管理職は、そうした過渡期にいる“自分の中のもやもや”と折り合いをつけ、できることを少しずつ増やしながら一人前になっていく。
「プレイヤー」としての輝きではなく、「管理職」としての輝きを新たに見つけることができた時、ようやく「新任管理職」から「新任」が取れるのかもしれない。
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。
1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。
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