話の内容と五感を結びつけると、忘れられないスピーチになる:表現のプロが教えるスピーチの兵法(1/2 ページ)
聞き手の印象に残るようなスピーチは、内容を磨き上げることはもちろん重要ですが、さらなる工夫も考えてみましょう。感覚に訴えると効果てきめんです。今回は、そのノウハウを伝授します。
月刊誌「企業実務」とは
「企業実務」は、経理・総務・人事部門の抱える課題を解決する月刊誌。仕事をすすめるうえで必要な実務情報や具体的な処理の仕方を正確に、わかりやすく、タイムリーにお届けします。1962年の創刊以来、理論より実践を重んじ、“すぐに役立つ専門誌”として事務部門の業務を全面的にバックアップ。定期購読はこちら。
本記事は企業実務のコンテンツ「表現のプロが教えるスピーチの兵法」から一部抜粋・編集して掲載しています。
3月から4月にかけての時期は、出会いと別れのシーズンです。読者のみなさんも、送別会や歓迎会などでスピーチをする機会もあるでしょう。
私には、この季節になると必ず思い出すスピーチがあります。私がNHKに在職していたとき、退職する女性スタッフに対して送った上司(アナウンサー)のスピーチです。
「退職する女性の話ではなくて、いきなり花の話なの?」と、その場の誰もが困惑した表情を浮かべつつも、次第に惹きつけられていきました。
話のアウトラインは、以下のとおりです。
その上司の好きな花は沈丁花(ジンチョウゲ)。早春に紅紫色または白色の花を咲かせる常緑低木です。この花は甘く女性らしい香りが特徴で、沈丁花という名前も香木の沈香(ジンコウ)のようなよい匂いがあり、スパイスである丁子(チョウジ)に似ている、という意味でつけられたそうです。
退職していく女性は、この沈丁花の香りが似合うような、とても可愛らしい女性でした。
一方、その仕事ぶりは、見た目に反してバイタリティに富んだもので、現場にどんどん出て行く行動派でした。
上司は彼女の行動力を称えながら、「今度から春先に沈丁花を見たときは、○○さんを思い出すことでしょう。今後ますますのご活躍をお祈りいたします」とまとめました。
そのスピーチを聞いて以来、春先にどこからともなく沈丁花の甘い香りが漂ってきたときは、退職した女性の顔と名前、そして上司のスピーチを思い出しすのです。
五感に訴えると印象に残りやすい
このスピーチが優れているのは、聞き手の五感に訴えている点です。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感と話の内容を結びつけることができたら、聞き手にとって忘れられないスピーチとなります。沈丁花のスピーチは、通常いつもスイッチが入っている視覚、聴覚だけではなく、ついつい鈍感になりがちな嗅覚を取り上げている点が絶妙です。
さらに、1年中感じられる香りではなく、スピーチをしたその時期にだけ香るという季節感が加わって、オリジナリティの高い内容になっています。そのため、主役であった退職する彼女のことを忘れないのはもちろん、スピーチをした上司のことも私の記憶に刻み込まれました。話の内容と話し手の両方の印象を残した好例です。
みなさんも、聞き手が忘れないようなスピーチをしたいと思ったら、話の内容と五感を絡めることができないか検討してください。
関連記事
- スピーチを成功させたければ、準備に十分な時間をかける
何度トライしてもスピーチがうまくいかない、という人も少なくありませんが、そんなときはスピーチを行う前の準備作業を見直してみましょう。準備に時間をかけるほど、スピーチに対する自信が生まれるのです。 - 聞き手を不安にさせる話し方
「この人の話、なんか信頼できない」「聞いていると不安になる」――。せっかくいい話をしていても、話し方ひとつで台無しになる場合があります。そんな悪い話し方のクセを直す方法を紹介します。 - 強弱を付けながら話すと相手に伝わりやすくなる
自分らしさを前面に出した話し方をすると、話を最後まで聞いてもらいやすくなります。人から物まねをされるほどの「個性」を確立できればなお効果的です。今回は、そんな自分らしさを打ち出す際のポイントを解説します。 - 話す相手に“軽く”見られないためのコツ
この人は信頼できる――。話す相手にはそんな印象を持ってもらいたいもの。そのためには会話中の過度な瞬きや頷きはNGです。今回はこんなクセを直すためのトレーニング法を紹介します。 - 「全日本空輸」と「日本航空」、正しく発音できますか?
「日本」は「にほん」「にっぽん」と2つの読み方があります。普段は気にしなくていいですが、社名についていたら要注意。話すときは事実のみを伝える――だからこそ固有名詞のミスは許されません。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.