JASRACがかみつく著作権の「競争原理」論

ブロードバンドコンテンツの普及には,どのような著作権管理が適当か? JASRACは昨年10月の法改正について,その効果に疑問を投げかける。

【国内記事】 2002年1月25日更新

 ブロードバンドになるとコンテンツがリッチ化し,音楽・映像に関連した権利処理の機会が増える。そうなれば,著作権管理の重要性が一層高まってくることは言うまでもない。

 その著作権業界では,昨年10月に規制緩和があり,著作権法の「仲介業務法」が「著作権等管理事業法」に改正された。従来の仲介業務法では,市場への参入が“許可制”であり,日本音楽著作権協会(JASRAC)が事実上,独占するかたちだった。

 だが新法では規制が緩和され,“登録制”へと変更。結果,イーライセンスやジャパン・ライツ・クリアランスといった企業が新規登録してくることとなった。

 新法では使用料の規定についても,従来の“認可制”から“届出制”に変更された。JASRACが“指定管理事業者”であるため,使用料の設定に制限を受けるのに比べ,上記のような一般の事業者は自由に使用料を設定できる。これにより,各管理事業者を競わせ,料金を下げさせるのが狙いだ。

 賛否両論あるようだが,規制緩和の対象にされた格好のJASRACは,当然ながらこの規制緩和に否定的。1月25日に開催された第23回デジタルコンテンツ産業研究会で,JASRACの送信部ネットワーク課,野方英樹課長が講演を行ったが,その主張するところを聞いてみると――。


JASRACの野方英樹課長

「競争原理は作用しない」

 法改正の狙いは,競争原理を働かせ,著作権にまつわるコストを下げさせること。ひいては,著作物の利用を促し,コンテンツビジネスを活性化させようというものだ。

 だが,野方氏は今回の法改正で「競争原理が働く」という発想をまず否定する。

 「そもそも競争原理というのは“あそこで買うよりもここで買ったほうが安い”という場合に作用するもの。ところが著作権の場合,同じ著作物を複数の管理者が取り扱うことはない。管理手数料ならともかく,これでは競争は起こらない」(同)

 同氏は実際にある事業者が公開している料金体系を紹介。「確かに当社より料金を安くしている部分もあるが,着信メロディを見ると5円50銭。JASRACの5円,という設定よりも高い」として,「現に使用料金が安くならない例だ」と話した。

 また,野方氏が問題視するのは「権利者による,より強い権利主張が可能になる」という点だ。

 従来の体制ではJASRACが権利を一任されていたため,当然権利許諾の要請に応諾する義務が生じる。また,料金についても「それほど価値のない権利も重要な権利も,使用料を一律に設定するという,分かりやすい方式だった」(同)。

 しかし,新規参入企業ではこのような義務はなくなる。当然,著作物ごとに個別に交渉していかなければならないほか,場合によっては強硬な姿勢をとる可能性もあるという。単純に言えば,人気アーティストの楽曲の著作権を吊り上げられる可能性がある,ということだ。

 さらに,根本的な問題として「窓口が複数になるし,権利者が管理事業者間を異動することも考えられる。一団体に頼めばよかったのと比べると,権利処理が複雑化するだろう」(同)と,利用者の負担増を危ぐした。

 野方氏はこれらの要因を指摘した上で,こう結論付けた。

 「(法改正によって)はたして(著作物の)円滑な利用が本当に促進されるだろうか? そして,産業界が期待するような効果が発揮されるだろうか?」。

関連記事
▼ ブロードバンドコンテンツに立ちはだかる“厳しすぎる規制”
▼ 着メロの著作権料はだれのもの?
▼ 政府の進める「デジタルコンテンツ支援策」――3つのポイント
▼ ストリーミング広告“特有”の問題とは――Jストリーム

関連リンク
▼ 日本著作権協会

[杉浦正武,ITmedia]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


モバイルショップ

最新スペック搭載ゲームパソコン
高性能でゲームが快適なのは
ドスパラゲームパソコンガレリア!

最新CPU搭載パソコンはドスパラで!!
第3世代インテルCoreプロセッサー搭載PC ドスパラはスピード出荷でお届けします!!