ニュース 2002年6月7日 07:03 PM 更新

ドゥーブに聞く、楽曲配信ビジネス「飛躍へのシナリオ」

なかなかブレイクしないネットでの有料音楽配信サービス。宇多田ヒカルなど大物アーティストを抱えるドゥーブ・ドットコムも苦戦している。同社に、ネット配信の成功には何が必要なのかを聞いた。

 「ビジネスとしてはまだまだですね」。こう漏らすのは、音楽配信事業者「ドゥーブ・ドットコムの稲垣貴思取締役。一般的にも、ネットの楽曲配信がなかなか離陸しないと言われているが、現場の担当者の言葉には、また違った印象を受ける。

 ドゥーブは、東芝と東芝EMIの合弁会社。レコード会社系配信事業者としては後発ながら、宇多田ヒカルや椎名林檎といった大物アーティストを抱えていることもあり、サービス開始時は大きな話題になった(2001年2月15日の記事参照)。

この1年でネガを排除

 「もちろん、全くダメというわけではないんですよ」。稲垣氏は、音楽配信ビジネスは「低空飛行」しているわけではなく、緩やかに上昇していると説明する。「ダウンロード数も、確実に増えています。ずっと右肩上がりというわけにはいきませんが、着実に裾野は広がっている」(同氏)。

 「面白い話があります。ショッピングカート機能を導入して、一度に複数の楽曲を購入できるようにしたら、十数曲まとめ買いするユーザーがいるんですよ。しかも、同じアーティストのものを。1曲の値段が350円ですから、アルバムで買ったほうがトータルでは安いのに、不思議ですよね」(稲垣氏)。

 稲垣氏は、音楽配信ビジネスの現状について、「ようやくネガティブな部分を排除することができたところ」と見ている。「まだ、全てのレコード会社が参加しているわけでもないし、全ての新曲が手に入るわけでもない。それでも、ダウンロード販売される楽曲は安全だという認識は広まったと思いますし、ブロードバンドの普及でユーザーも利用しやすくなったでしょう」(同氏)。

 稲垣氏は安全性についてこんなエピソードを挙げた。

 「椎名林檎の楽曲で、シングルでは発売されないものをネットで限定配信しました。もちろん、ファンにとってはお宝モノですから、すぐに完売しますよね。われわれはもしかしたら、セキュリティが破られて、ファイル交換ソフトで出回るかなと予想していたんですが、結局、その曲が公開されることはありませんでした」(稲垣氏)

 なおドゥーブでは、楽曲配信技術として米Microsoftの「WMT」(Windows Media Technology)、ならびに米IBMの「MediaDirect」を採用している。

 ところで、ファイル交換ソフトの存在そのものは、ネット配信ビジネスの成長の阻害要因ではないのだろうか? 

 コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)と日本レコード協会(RIAJ)では、ファイル交換サービス「Napster」でダウンロードされた楽曲数を被害額として算出し、有料のネット配信サービスの脅威になっているとアピールしてきた。最近では、「ファイル交換ソフトの利用者が潜在的なネット配信の顧客とは断定できない」として、直接的な因果関係については明言しないようになったが、未だに「ファイル交換ソフトのせいでネット配信が立ち上がらない」という意見は根強くある。

 稲垣氏は「音楽配信ビジネスの現場で、ファイル交換ソフトの脅威を口にする人はほとんどいませんよ」と言い切る。「まったく影響がないかどうかは分かりませんが、そこまで騒ぐほどファイル交換ソフトのユーザーが広がっているというような認識ではないですね」(同氏)。

エポックメイキング

 ネガティブな要素がなくなったにもかかわらず、冒頭にあるように稲垣氏が「まだまだですね」と話すのは、音楽配信がビジネスとして成長していくために、どこかで大ブレイクが必要だと考えているからだ。ネットで十数曲をまとめ買いするユーザーが、“面白い話”ではなく、一般的な行為になるために「エポックメイキングな何かが必要」だと稲垣氏は力説する。

 「今、音楽配信ビジネスが必要としているのは、消費者にサービスを利用したいと思わせる何です。ウォークマンが登場したとき、誰もが外で音楽を聴くことに憧れましたよね。この業界も、楽曲をデータで持ち歩くことがスタイルになるような、ことをしかけていかなければならないでしょう」(同氏)。

 ウォークマンではないが、ATRAC3形式の楽曲データをMDに高速転送できる「NetMD」は、ネット配信の盛り上げ役になると注目を集めた。しかしながら、“エポックメイキング”にはなっていないという。「影響がないわけではありませんが、ダウンロードされる楽曲の中で、ATRAC3形式のファイルが増えたことぐらいですかね……」(稲垣氏)。

 PSHを利用したモバイル楽曲配信に対しても、冷静な姿勢だ。「ネックはメディアの料金」(稲垣氏)と分析する。

 「NTTドコモがモバイル楽曲配信サービスを開始当初は、宇多田ヒカルを使って大々的にアピールしたこともあり、ドゥーブの数倍のダウンロード件数があったと聞いています。それが、あるときを境にだんだん数が減っていた。原因を調べてみたら、同梱の64Mバイトメディアがいっぱいになってしまったので、新しいメディアを購入しようと思ったら高すぎてサービスの利用を止めてしまていたことが分かりました。それに、64Kbpsでは、ADSLなど優先のブロードバンドに速度ではかなわない。FOMAでも最大384Kbpsですからね」(同氏)。

CCCDの導入が引き金になる?

 また稲垣氏は、「値下げ」は起爆剤にはならないと主張する。現在、ネット配信される楽曲の値段は1曲あたり350円というのが主流。先日、エイベックスが200円に値下げするまでは、全ての事業者が350円で横並びだった(内税/外税の違いはあったが)。

 「経験的な意見ですが、値段を下げても飛躍的に売れ行きが伸びるといったことにはならないでしょう。350円のものが200円になったからといって、消費者をダウンロード購入へと向かわせる強烈な動機になるとは思わない」(同氏)。

 だが、エイベックスがネット配信の料金を値下げしたのは、単に安さを訴求するためだけではなく、コピーコントロールCD(CCCD)と絡んだ戦略だと言われている。

 というのも、CCCDはPCへのリッピングを制限するため、楽曲データが収録されている。このデータは超低ビットレートなので、「PCで聴く場合はネットで楽曲を買って下さい」となるわけだ(ただ、エイベックスではCCCDの発売とネット配信の料金値下げに明確な因果関係はないとしている)。ドゥーブの株主である東芝EMIも、今後CCCDを順次発売していくとしており、ネット配信の料金を引き下げることは大いに考えられる。

 稲垣氏は、同社のビジネスについて「ここ1〜2年が勝負」と見る。その間に、CCCDは、ネット配信サービスへと消費者を向かわせることができるのだろうか? 値下げだけでなく、ネットだったら発売日の1週間前に新曲をダウンロードできるぐらい“エポックメイキング”だったら、可能性はあるかもしれない……。

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[中村琢磨, ITmedia]

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