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2003/04/07 23:59:00 更新 |
Interview
ロボット大国“ニッポン”に乗り込む米Evolution Robotics
ノートPCを頭脳に使うロボット「ER-1」で一躍有名になった米Evolution Robotics。バンダイ「リアル ドリーム ドラえもん プロジェクト」との協力関係でも知られる同社は、「ROBODEX 2003」出展に続き、年内には日本事務所を設立するなど、日本市場にフォーカスした動きをみせている。ROBODEXのために来日した、同社CEOのBernard Louvat氏に話を聞いた
日本が突出していると言われるロボット研究の分野にあって、国内メーカーの注目を集める米国企業がある。ノートPCを頭脳に使うロボット「ER-1」で一躍有名になった米Evolution Roboticsだ。先週開催された「ROBODEX 2003」で日本デビューを飾った同社は、年内にも日本事務所を立ち上げ、本格的な攻勢に入る。その技術と戦略について、来日した同社CEOのBernard Louvat氏に話を聞いた
同社CEOのBernard Louvat氏(右)とOEM事業部長のRobert Callahan氏(左)
ZDNet:まず、Evolution Roboticsのビジネスについて教えてください
Louvat:よく誤解を受けるのですが、われわれはロボットメーカーではありません。ロボティックス・ソフトウェアを開発し、ライセンスという形でメーカーに技術を提供しています。このソフトウェア群は「ERSP」(Evolution Robotics Software Platform)と呼ばれ、移動型のパーソナル・ロボットに不可欠な基本コンポーネントを提供します。
とくに「ビジョン」(視覚認識)と、ロボットの自律的な移動をサポートする「ナビゲーション」では最先端の技術を持っています。視覚認識技術は、ローコストなWebカメラを使い、何千(最大1万)という物体をリアルタイムに認識することができます。物体の画像を1枚以上取り込めば、ソフトウェアが画像を分析し、1枚あたり最大1000カ所の“特徴”を抽出します。
視覚認識技術のデモ。1ドル札をカメラの前に出すと「1ドル札です」とロボットが答える。照明を落としても認識可能だ
これにビジュアルローカリゼーションとマッピングのソフトウェア(vSLAM:visual Simultaneous Localization and Mapping)を併用すれば、ロボットは景色からランドマーク(指標)を見つけ出し、自分のいる場所を特定できます。ホイールの回転数を用いて移動距離を算出する光学式エンコーダでは、ホイールの横滑りなどのエラーが多く、位置情報が不正確ですが、ERSPのvSLAMは、Webカメラと光学式エンコーダを併せて利用することで、高価なレーザー照準機を用いた計測技術に比べて大幅なコスト削減と性能アップを実現しました。
この技術は、あらゆる分野に応用できるでしょう。例えば、インテリジェントな“お掃除ロボット”です。オフィスからオフィスへ移動しながら、それぞれの部屋を掃除してくれます。また、医療分野では血液サンプルなどを運ぶ“輸送ロボット”、そのほかにもセキュリティ、クリーニング、製造などさまざまな用途を検討しています。
ZDNet:4月1日にリリースしたERSPの「SDK2.0」(ソフトウェア開発キット)は、従来とどのように違うのですか?
Louvat:特徴は2つあります。ロボットコントロールアーキテクチャに多くの機能が追加されたこと、そして視覚認識の処理速度向上です。たとえば、動いている物体を認識する動体認識のパフォーマンスがアップしました。
ただ、ROBODEXに合わせて急いで開発したため、現在出荷しているのはβ版です。
ZDNet:バンダイの「リアル ドリーム ドラえもん プロジェクト」に技術供与するという話題がありましたが、進捗状況を教えてください。
Louvat:今のところは“実験段階”です。われわれのライセンスには、SDKを使うワンタイムのライセンスと、製品化の際に契約するランタイムライセンス(プロダクトライセンス)があり、バンダイの場合は前者です。
ただ、プロジェクトは5月から次のフェーズ(開発段階)に入るので、その後は両社のスタッフが共同で開発にあたることになるでしょう。Evolution Roboticsは、視覚認識、コントロール、ナビゲーション、人とコミュニケーションをとるためのインタラクションといった技術を提供していきます。
ZDNet:バンダイ以外の日本企業とは交渉を進めているのですか?
Louvat:企業名を明かすことはできませんが、10社以上とコンタクトを取っています。これには、アミューズメント、製造、コンシューマーなど、さまざまなジャンルの企業が含まれています。
こうした需要に応えるため、2003年中に日本事務所を開設する予定です。さらに多くの企業と、話し合いの場を持つことができるでしょう。
ZDNet:初めて「ROBODEX」に参加した感想を聞かせてください。今回は、1月の「2003 International CES」に出展した「ER-2」を見ることができませんでしたが、何故ですか?
Louvat:ER-2は“Evolution Roboticsの技術を応用して何ができるか”というショウケースとして作ったもの。つまり一種のデモンストレーションです。ROBODEXで展示しなかったのは、われわれの基本的な技術を見てもらうことが目的だったからです。
実は、昨年ROBODEXにビジター(一般入場者)として参加し、日本の状況に驚かされました。多様な企業や大学などがすばらしいロボットを作っていて、しかも数が多い。これが今年の出展を決めた理由です。
コンピュータ業界をみると、市場がフラットな状態(成長が横這い)になったことが分かります。しかし、CPUパワーの向上によってロボットの可能性は広がりました。画像認識アルゴリズムを動作させるにはパワーが必要ですが、現在は一般的なノートPCでも動かすことができます。
日本でも、多くの企業にわれわれの製品を提供できるでしょう。そのポテンシャルに期待しています。
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関連リンク
Evolution Robotics
ERSP SDK2.0のニュースリリース(Evolution Robotics)
[芹澤隆徳,ITmedia]