リビング+:ニュース 2003/06/13 23:59:00 更新


これぞユビキタス? ソニーの研究所で「TACT」を見た

ソニーが初めて「ユビキタス バリュー ネットワーク」をぶち上げたのは2年前のCOMDEX/Fall。これを実現に近づけるPDAがソニーコンピュータサイエンス研究所のオープンハウスで公開された

 ソニーコンピュータサイエンス研究所(Sony CSL)は6月13日、オープンハウスを実施した。今回は、ロボットやコンピュータを含むマシンやネットワークを「いかに簡単に利用するか」という視点に立ったデモンストレーションが多かったが、中でも注目したいのが、常時接続環境での使用を前提としたLinuxベースの多機能PDA「TACT」だ。

 写真撮影が禁じられていたため、その外観を紹介できないのが残念だが、TACTは「PDA」といわれて想像するような形状ではなく、携帯電話に近い細身のきょう体を持っている。小型のモノクロディスプレイといくつかのボタン、マイクやスピーカーを備え、VoIP機能を搭載。そのままモバイルIP携帯電話として使える。

 外部接続用のインタフェースは豊富で、認証に使う非接触型IDタグのほか、IrDA、IEEE 802.11b無線LAN、USBホストを内蔵。赤外線を使って家電を操作する“マルチリモコン”としても利用できる。

 手のひらに収まる大きさに、これだけの機能を詰め込んだのもすごいが、実はTACTの“本質”は別のところにある。煩雑なネットワーク設定を省き、直感的な操作を可能にするインタフェース技術が多く盛り込まれているのだ。

「向ける」だけで操作

 2001年のCOMDEX/Fallで安藤国威社長が明らかにした「FEEL」というコンセプトを憶えている人は多いことだろう。同社が初めて「ユビキタス バリュー ネットワーク」をぶち上げたとき、その実現に欠かせないインタフェース技術として提唱したものだ(2001年11月の記事を参照)。TACTには、そのFEELが実装されている。

 例えば、PDAをネットワークに接続するとき。通常なら無線LANカードやPHSを挿入し、ドライバを導入し、さらにIPアドレスを取得する方法や認証手段などを設定していく必要がある。DHCPの登場が設定を簡単にしてくれたとはいえ、まだまだ作業は繁雑で、しかもユーザーにスキルを求める。

 ワイヤレスネットワークはユビキタスなネットワーク環境を実現する上で重要だが、セッションの確立に時間をかけてはいられない。この問題を解決するのがFEELだ。

 FEELでは、「触れる」「向ける」「載せる」といった直感的かつ直接的な手段で機器同士のセッションを確立し、同様に情報をやり取りする。例えば、赤外線による機器操作のデモンストレーションでは、TACTを操作したい機器(今回はPCを使用)に「向ける」だけで機器IDを交換し、セッションを確立していた。

 ただし、赤外線は人の目には見えず、通信状況は把握しにくい。そこで、両方のデバイスに光源を持たせ、光の強弱で通信状態を表現する。安定した通信が行われていれば、白いLEDがゆっくりと点滅するが、通信状況が悪くなると早い点滅に変わる。接続が切れたときは照明が消えるといった具合だ。これなら、非PCユーザーにも理解しやすい。

「触る」だけで認証

 一方、インターネットを経由して別の場所にあるサーバや機器に接続したいとき。さすがにTACTをそちらの方角に向ければいい、というわけにはいかない。少なくとも、機器を特定するIPアドレスと認証が不可欠だ。

 TACTでは「触れる」ことで認証を行う。PCなど接続したいデバイスにRFタグを付けておき、ここにポンと触れる。このとき、「チケット」(resouce-Ticket)と呼ばれる電子証明書をデバイス間でやり取りし、IPアドレスやユーザー情報を確認。後は、接続される側の機器で、画面に表示された「OK」をクリックするだけ。

 「物理的な接触によって手順が簡略化できる点がカギ。最初に触った人だけとは仲良くするが、それ以外の人は無視するという、分かりやすい仕組みで安全性が高まる。ただし、最初の(認証時の)トリガーだけは人間が介在し、明示的に許可を与えるほうがいい」(Sony CSLの長健二朗研究員)。企業ユーザーが自分のPCにリモートアクセスする場合などには特に便利な機能だろう。

ユビキタスなVoIP電話とは?

 別の場所では、TACTをIP電話端末として利用するデモンストレーションが行われていた。もちろん、単なるVoIP携帯電話ではない。かなりユビキタス度が向上した携帯電話だ。

 例えば、仕事仲間と携帯電話で話をしているとき、急に文書を送る必要が生じたら。現在はPCを立ち上げ、メーラを起動して相手のメールアドレス宛に送信するだろう。

 しかし、携帯電話がIP化されていれば、「通話しているということは、相手のIPアドレスがわかっているということ」。つまり、書類がPDAの中にあれば、通話中でもそのまま伝送できるという。「電話は音声というデータを送信する手段。それに文書データを追加するだけだ」(Sony CSLの河野通宗研究員)。

 また、音声通話からTV電話へシームレスに切り替えるデモも披露された。前述のように、通話中はお互いのアドレス情報を保持している。そのままカメラ付きPCのある場所へ行き、RFタグで“ポン”と認証。その際、通話相手のIPアドレスも伝送する。PCでTV会議ソフトを立ち上げれば、即通話開始という寸法だ。

 なお、デモに使われたTACTはSIPとH.323をサポートしている。またIPv4/IPv6のどちらでも利用できるが、Mobile IPのような仕組みが必要だという。

タクトは指揮棒?

 ソニーコンピュータサイエンス研究所が開発したTACTは、文字通り“研究所レベル”のデバイスだ。完成度は高いが、「バッテリー駆動時間は1時間程度」という状況を考え合わせてみても、製品化が近いとは思えない。

 また、デモンストレーションも会場の各所に跨った形で行われており、どちらかというと“Sony CSLで行われているネットワークとインタラクションに関するいくつかの研究開発を集め、1つのデバイスという形に結実させたもの”という印象を受けた。

 TACTやFEELの技術が世に出るとしても、それがPDAの形をとるとは限らないだろう。今回、撮影が禁止されたのも、あるいはPDAの形にイメージが固定化してしまうことを危惧したためかもしれない。事実、TACTを実用化するためには、PCやネットワークの環境作りも含め、まだまだ超えるべきハードルは多い。

 ただ、TACTを見ていると、これまでは抽象的すぎて想像することすら難しかった“ユビキタス”が、おぼろげながら形を持ってきたような気がした。

 「TACTは、単なる万能リモコンでもIP電話でもない。スペルは違うが、オーケストラの指揮棒のように機器を操り、コミュニケーション自体の楽しさを広げるものだ」(河野氏)。

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関連リンク
▼ソニーコンピュータサイエンス研究所

[芹澤隆徳,ITmedia]



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