リビング+:特集 2003/10/23 18:58:00 更新

特集:秋の夜長はイーブックで過ごす
イーブックと著作権者の仲を取り持つのは……

業界として盛り上がりを見せる電子書籍ビジネスだが、1つ気になる点がある。作家などの著作権者は、自らの作品の電子化に抵抗感はないのか? ということだ。

 業界として盛り上がりを見せる電子書籍ビジネスだが、1つ気になる点がある。作家などの著作権者は、自らの作品の電子化に抵抗感はないのか? ということだ。

 いうまでもなく、ネットでは一度著作権侵害が発生すると、違法コピーに歯止めをかけことのは難しい。作家側が権利侵害をおそれて、自らの制作物の電子化を容易に許さない、といった状況は起きていないのだろうか。

 凸版印刷の情報・出版事業本部、企画販促本部のEビジネス部プロデューサー、加瀬裕之氏は、この点に対する考え方は、作家次第だという。「何年も前から、高い意識をもって電子書籍に取り組んできた人もいる」。

 同社は、芥川賞受賞作のイーブック化を手がけているが(記事参照)、このことからも人気作品を電子化することが、必ずしも不可能でないことが分かる。ほかに、村上龍氏のように電子書籍向けの読みきり短編小説を執筆した作家や、電子書籍ビジネスコンソーシアムに協賛、特別顧問に就任した里中満知子氏のような漫画家も存在する。

 一概に、「作家はみな電子書籍に好意的」、と言い切ることはできないだろうが、少なくともイーブックビジネスにいい意味での興味を持っている作家は、相当数いるということだろう。

整備が進む、著作権保護技術

 もちろん、そうはいっても電子書籍サービスの現場で、実際に著作物がコピーし放題だったので話にならない。この点は、各デバイスメーカーとも十分な配慮を行っている。

 たとえば、シャープの「ザウルス文庫」では、コンテンツの暗号化によって引用や転用を行えないように配慮をしている。著作権の“同一性保持権”にも配慮し、コンテンツの改ざんを行った場合には、その書籍が開かなくなるような仕掛けを講じている。

 また、配信過程でイーブックコンテンツに日付や販売IDを記録する「フットプリント機能」を備える。こうした対策で、コピーし放題、流通し放題の状況を防ぐことが可能だ。

 松下電器産業がこの秋から発売するΣBook(レビュー記事参照)では、SDカードの規格に含まれる「CPRM」と呼ばれるセキュリティ技術に対応した。コンテンツ配信サーバに、ライセンス配信サーバを組み合わせることで、コンテンツのダウンロード時に「コピー不可」「利用回数制限」「期間設定」などの利用条件を付加することが可能だ。

 ΣBookでは、コンテンツをダウンロードするのはPCで行い、そこからSDカードに「ムーブ」(コピーではない)するという手法をとる。SDカードにデータを移すと、PC側にはデータが残らない。また、PCからほかのPCへコンテンツをコピーしても、読み取れないという仕様になっている。

 松下電器産業のパナソニックシステムソリューションズ社、eソリューション本部 eシステム開発グループの早川佳宏グループマネージャーは、こうしたコンテンツ管理のシステムが、新しいビジネスモデルを創出する可能性があると話す。

 「電子書籍では、紙の本よりいかに安くするかが重要。たとえば回数制限をつけて、その分一般の書籍より安価にすることが考えられる」。

 たとえば、紙の本を週に数冊読むようなヘビーユーザーは、本を一度読んだだけで売ってしまい、“視聴料”を安くしようとする場合がある。そうしたユーザー向けに、「視聴回数は1回だが、極めて安い」といった購入プランを提示すれば、受け入れられる可能性がある……というわけだ。

結局、著作権者は「市場拡大」を求めている

 「10daysbook」を運営する、イーブックイニシアティブジャパンの鈴木雄介社長は、「一般に、著作権侵害が不安で業界に参入しない人はあまりいない」と話す。

 「ただし、彼らが気にするのは『本当にもうかるのか?』という点だ。大事な時間を費やして、一生懸命にやって、月に数千円しか入らないのではないか? と気にしている」。

 やはり、著作権者を説得する一番の方法は、それによって制作側への正当な対価、報酬を読者から回収できることを明示すること。その意味で、実は市場の立ち上がりこそが新規参入を促す早道ともいえる。

 そして、イーブック業界をとりまく環境は、今年に入って明らかに機運の盛り上がりを感じさせる。前出の、凸版印刷の加瀬氏は「ここ数年やってきて、従来の読者とは異なるユーザーを獲得できることは示してきた。事業者からも、『今までやってこなかったが、参入しようか』という姿勢を見せているところは多い」と、その手ごたえを話す。

 最終的には、ユーザーがどれだけイーブックに好感を示して、コンテンツの購買に踏み切るかだ。これが市場を拡大させ、著作物のさらなる流入を呼び、ラインアップが拡充し、それがまた市場を拡大させるという“正のスパイラル”に突入できるか。これからの1年が、勝負と見る関係者は多い。

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[杉浦正武,ITmedia]



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