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2003/11/10 23:59:00 更新 |
ソフトバンク、当期赤字拡大も「事業は順調」の理由
ソフトバンクは11月10日、2003年度第2四半期の決算発表を行った。最終的な当期損益こそ、426億円の赤字を計上したが、事業の進捗状況には自信を持っているようだ。
ソフトバンクは11月10日、2003年度第2四半期の決算発表を行った。最終的な当期損益では、426億円の赤字を計上したが、事業の進捗状況には自信を持っているようだ。
同社のブロードバンド事業で、黒字化のめどはついているのか、また黒字化するとすればそれはいつ頃なのか。発表されたデータを参照しながら、改めて同社の主張するところを聞いてみよう。
ソフトバンクの孫正義社長。「当初と比べ経営も楽になり、いまは2年後、3年後のシナリオを立てている」と、あくまで強気の構え
今は「V字回復」の途上?
まずは、四半期決算の内容を見てみよう。売上高は、第1四半期から176億円増加して、1215億円。しかし、営業損益ベースで、151億円の営業損失を計上し、経常損益では230億円の赤字だった。最終的な当期損益では、426億円の赤字となっている。
第1四半期の当期純損失が347億円だったから、四半期の業績はますます悪化したように見える。ただし、これはあおぞら銀行株売却に伴う有価証券売却損(*)や、関係会社株式の評価損などが積み重なって、172億円の特別損失を計上したことも大きい。孫社長自身は、一時的な損失として、さほど意に介していないようだ。
*あおぞら銀行株は、取得時の価格が507億円、売却時の価格が1011億円だったため、トータルで見れば得をしている。ただし、売却時の簿価、時価の関係から、当期の損益としては売却損が計上される
孫社長は、むしろ営業損失と経常損失が、第1四半期と比べてそれぞれ90億円、76億円だけ改善している(記事参照)ことをアピールする。なぜ、赤字が減ったのか。ここには、3つのポイントが挙げられるようだ。
まず第一のポイントは、ADSLなどの“ブロードバンドインフラ事業”以外に分類される分野で、営業利益が拡大していること。第1四半期では46億円だった営業利益が、第2四半期では56億円に拡大した。「あとは、ADSL事業を黒字化するだけ」という状況に、なっているわけだ。
第二のポイントは、その“ブロードバンドインフラ事業”でも、売上が増加していること。今までに同社と契約しながら、「お試し無料期間中」だったユーザーが、順次有料会員に移行しつつある。なおかつ、ARPU(Average Revenue Per User)も、約4000円(注:ヤフーのISP料含む)の水準からやや上昇傾向にある。
従って、第1四半期と比較すると、ブロードバンドインフラ事業の売上高は59億円伸びている。“顧客獲得コスト”さえ考えに入れなければ、現状でも34億円の営業黒字を計上できるという。
ブロードバンドインフラ事業部の営業損失の推移。2002年度第4四半期を“底”に、V字回復を目論んでいる
ただし、この“顧客獲得コスト”が問題だ。同社は今なお、毎月膨大な顧客獲得コストを費やして、新規加入者獲得を続けている。本四半期も、顧客獲得コストには「250億円弱」(ソフトバンク)を投じた。経常損失が230億円だったことを考えると、赤字のほとんどはこの部分ともいえる。
だが、この顧客獲得コストも、このところ抑えぎみにコントロールしてきた。これが、第三のポイントだ。このまま、ブロードバンドインフラ事業以外が順調に伸び、ブロードバンドインフラ事業も有料会員が増え、かつ顧客獲得コストを抑え続ければ、今後1年程度で黒字化は達成される――。これが、孫社長の描く構図。そして、営業損失と経常損失は、いまのところそのとおりに推移しているというわけだ。
いつ黒字化するのか?
それではいつ、ソフトバンクが実際に黒字化するのだろうか。発表会場で孫社長は、報道陣から重ねて黒字化の時期を聞かれたが、コメントを出そうとしなかった。
この理由は、ブロードバンド業界の先行きが、まだまだ不透明なため。今後、どのくらい新規加入者を増やせるのか分からない――言い換えると「場合によっては、顧客獲得コストを積極的に投じるかもしれない」という事情がある。
ここで、この日発表された10月末時点でのYahoo!BB接続回線数を見てみよう(別記事参照)。契約者数は、前月比約15.1万増の、約339.1万回線。最近ではADSL業界全体の成長率が鈍化し、全事業者合わせても月間で30数万回線しか伸びていない(記事参照)ことも考え合わせると、ひとまずは好調といってよい。
Yahoo!BB接続回線数の推移
月 | 4月末 | 5月末 | 6月末 | 7月末 | 8月末 | 9月末 | 10月末 |
回線数 | 254.7万 | 268.0 | 282.2万 | 296.1万 | 309.2万 | 324.8万 | 339.1万 |
前月比 | +18.4万 | +13.3万 | +14.2万 | +13.9万 | +13.1万 | +15.5万 | +15.1万 |
BB Phone利用回線数の推移
月 | 4月末 | 5月末 | 6月末 | 7月末 | 8月末 | 9月末 | 10月末 |
回線数 | 216.2万 | 235.3万 | 251.6万 | 267.2万 | 282.8万 | 298.9万 | 314.5万 |
前月比 | +18.8万 | +19.1万 | +16.2万 | +15.7万 | +15.6万 | +16.1万 | +15.6万 |
仮に、ソフトバンク陣営が「今は新規加入者数を増やすのが得策」と判断したなら、現状では抑え気味にしている顧客獲得コストを、再び増やすこともあるかもしれない。そうなると、黒字化の時期は再び先延ばしになることになる。実際、孫社長も「(顧客獲得コストは)今後下がり続けるということではない。状況を見つつ、逐次意思決定する」と、含みをもたせている。
孫氏はまた、グループ全体としてブロードバンドコンテンツサービスの充実を図ることにも言及。広告収入だけではなく、有料コンテンツによって高収益が望める「インターネットの第2次成長が始まった」とした。この分野での事業の成功、あるいは失敗が、同社の業績に影響をおよぼすことも考えられる。
いずれにせよ、ADSL市場を大きく動かしたソフトバンクが、はたして本当に黒字化できるのかは、関係者の注目の的だ。今後、もうしばらくは注意して動向を見守る必要がありそうだ。
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ソフトバンク
[杉浦正武,ITmedia]