今、シアトルが宇宙ビジネスで熱い!宇宙ビジネスの新潮流(1/2 ページ)

» 2015年08月07日 15時38分 公開

 米国西海岸の大都市、シアトル。メジャーリーガーのイチロー選手がかつて所属したマリナーズの本拠地があり、多くの日本人によく知られている街である。実は今、宇宙ビジネス産業の最前線といえる都市でもあるのだ。

伝統的な航空宇宙産業都市

 シアトルはワシントン州北西部に位置する米国西海岸有数の都市であり、経済の面では、IT大手の米Amazonやコーヒーチェーン大手の米Starbucksが本社を構えている。また、同じワシントン州レドモンドには米Microsoftの本社があるなど、全米有数の企業都市でもあるのだ。そして、シアトルおよびワシントン州は、伝統的に米国を代表する航空宇宙産業の聖地でもある。

 例えば、米国労働省労働統計局が発表した2014年の統計では、航空宇宙産業に従事する技術者数において、州単位では全米1位のカリフォルニア州に続き、ワシントン州は2位につけており、航空宇宙産業関連の拠点数は州全体で1300以上にも及ぶ。さらに、都市単位で見ると、シアトルおよびその周辺地域は、実は全米1位の技術者数を保有する地域になっているのだ。

 こうした航空宇宙産業の発展は、航空宇宙機器大手の米Boeingの歴史と重なる。Boeingはウィリアム・E・ボーイング氏により1916年にシアトルで創業した後、2001年にシカゴに本社移転するまで、実に85年間にわたりシアトルに本社を構えていた。そしてBoeingを中心に、関連する航空宇宙産業系の部品メーカーの多くがシアトルおよびワシントン州に拠点を作ることで産業として発展してきたのである。

航空宇宙産業が盛んなワシントン州(出典:米労働省労働統計局ほか) 航空宇宙産業が盛んなワシントン州(出典:米労働省労働統計局ほか、ソースURL

産業の担い手は宇宙ベンチャーへとシフト

 2001年のBoeingによる本社移転はさまざまなメディアで記事が書かれているので、ここでは詳細を割愛したいと思うが、2001年の本社移転以降、2010年以降には工場移転も実施。最新鋭機「B787-9」の最終組み立てはワシントン州に加えてサウスカロライナ州でも行っており、次期「B787-10」の最終組み立てはサウスカロライナ州で行うと発表した。こうした動きに対して、ワシントン州もBoeingを州内にとどめようとする目的で、事業税率の軽減や固定資産における事業免税措置などの優遇政策を推進してきている。

 こうした動きをとらえて、シアトルに熱い視線を送っているのが新興宇宙ベンチャー企業だ。ロケット製造・打ち上げ大手の米SpaceXの本社はカリフォルニア州だが、昨年イーロン・マスクCEOが発表した地球規模の衛星インターネット構想とともに、シアトルに新オフィスを立ち上げた。また、Amazonのジェフ・ベゾスCEOが創業した米Blue Originや、小惑星資源探査を目指す米Planetary Resourcesなど多数の宇宙ベンチャーがシアトルおよびワシントン州に拠点を構えている。

 特にSpaceXはシアトルオフィスのスタッフ数を今後3〜4年以内に1000人規模へと拡大することを目指しており、エレクトロニクス、ソフトウェア、パワーシステム系のエンジニアを積極的に集めている。先に述べたように、ワシントン州には航空宇宙産業系の技術者が多数おり、一方で大手IT企業がいることからソフトウェア系の技術者も多数いる。人材獲得の面からみても地の利があるとの判断であろう。

 ワシントン州宇宙局も2013年に18の企業、組織を集め、「Washington Space meeting」を開催。ワシントン州の宇宙産業を成長させるための施策について議論をした。SpaceX、Planetary Resources、Blue Originなどの宇宙ベンチャー企業たちも参加しており、現在では 「Washington State Space Coalition」として組織化されて30社以上が所属している。2015年には従来Boeingに対して行ってきた優遇以上の措置をワシントン州政府に求めている。

ワシントン州の航空宇宙関連企業の主要拠点 ワシントン州の航空宇宙関連企業の主要拠点
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