芥川賞『火花』おめでとー記念 文学賞を2倍楽しむ方法出版社のトイレで考えた本の話(1/4 ページ)

» 2015年08月21日 08時00分 公開
[堺文平ITmedia]

出版社のトイレで考えた本の話:

 出版界全体は、紙から電子へとフィールドを広げつつある。その一方で、従来の紙の書籍・雑誌の市場は縮小を余儀なくされている。アマゾンがほとんどの出版社にとって「単店での売上一番店」となる中、グーグルやアップルなど、従来は接点のなかった会社も次々とプレイヤーとして参入してくる。これから本はどうなるのか。

 このコラムでは、某出版社で主にビジネス書・実用書などを手がける現役編集者が、忙しい日常の中、少し立ち止まって、そうした「出版や本を取り巻くあれこれ」を語っていく。


芥川賞に選ばれ、爆発的に売れている又吉氏の『火花

 ご存じのように、お笑い芸人のピース・又吉直樹氏の『火花』が、第153回芥川龍之介賞(芥川賞)を受賞することに決まった。

 選考会は7月16日に行われ、羽田圭介氏『スクラップ・アンド・ビルド』と同時受賞。また直木三十五賞(直木賞)は東山彰良氏の『』(りゅう)に決定した。8月21日(金)には都内で贈呈式を開催。ちなみに、芥川賞は純文学の新人作家、直木賞は大衆文学(ざっくり言えばエンターテインメント系小説)の新人・中堅作家に与えられ、発表は1月・7月の年2回である。

 「作家・又吉直樹」の生みの親として一躍、注目を浴びることになったのは、文藝春秋社の文芸誌「文學界」の編集者である浅井茉莉子氏である。

 もともと又吉氏の文才を高く評価していたところ、文学系のフリーマーケットの打ち上げで偶然に同氏を見かけ、猛烈にアタック。すでに文学好きとしては知られていたものの、当初は「自分が小説を書く意味が分からない」と渋っていた又吉氏を粘り強く説得し、2本の短編を経て、数年越しで『火花』の執筆に導いたという。

 個人的には、編集者として、とても素晴らしい仕事をされているなと思う。

 才能を見つける、実際に書いてもらう、そして書かれたものが売れる。数年にもわたって根気強く執筆の伴走を務めるのは、いま本が売れている人に、「何でもいいからすぐ書いてくれ!」という勢いで執筆を頼むのとは趣がだいぶ違う。また『火花』はこの記事の執筆時点で200万部を突破していて、これは芥川賞受賞作の部数としてはダントツの1位。90年以上におよぶ文藝春秋社の歴史の中でも、単行本としてすでに歴代2位の売れ行きだ。

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