芥川賞『火花』おめでとー記念 文学賞を2倍楽しむ方法出版社のトイレで考えた本の話(4/4 ページ)

» 2015年08月21日 08時00分 公開
[堺文平ITmedia]
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文学賞同士の対抗意識

 文学・フィクション系だけに限っても、芥川賞・直木賞のほかにも多くの賞がある。それでなくとも、文学賞はさまざまな意図が渦巻くものだけに、ときに主催者同士のメンツや対抗意識が表に出てくる。

 例えば、新潮社が1987年に創設した三島由紀夫賞(主に純文学)・山本周五郎賞(主に大衆文学)は、ほとんど芥川賞・直木賞と同じ構造で、一時期は「芥川・直木の両賞を逃した良作」を意識的に選んでいるようにさえ見受けられた。実は『火花』は、今年5月に発表となった第28回三島由紀夫賞にもノミネートされ、受賞作となった上田岳弘氏の『私の恋人』と最後まで争ったが、審査員5人による決選投票で、1票差で賞を逃していた。

 後発で年1回授与の三島賞とすれば、芥川賞より先に話題となるような作品を見つけて賞のプレゼンスを上げたい。実際、芥川賞受賞者の作品は、これまで三島賞の候補にさえ入ったことがない。一方、年2回授与の上にネームバリューの高い芥川賞としては、「三島賞は芥川賞の前座」という位置付けで横綱相撲を演出したいところなのである。ほかにも、石川県の金沢市が主催する泉鏡花文学賞には、創設当初「芥川賞・直木賞受賞者は除外する」という不文律があったのは有名である。

 文学賞以外に目を移せば「この人のジーンズ姿、ほとんど見たことないんだけど」という人がベストジーニストに選ばれたりするし、新語・流行語大賞などは「AKB48」や「妖怪ウォッチ」など、「それ、流行語っていうか、グループ名とか作品名だし」という言葉が上位入賞したりする。『ゲゲゲの女房』がヒットした2010年の大賞は「ゲゲゲの〜」だったのだが、「〜」に入る言葉が「鬼太郎」と「女房」以外にあるのかどうかは不明である。

2014年の新語・流行語大賞では、なぜか「妖怪ウォッチ」が「流行語」としてトップテン入り(出典:テレビ東京)

 要は「授賞式で映える人、メディアが取材に来たくなるモノ」を選びたいということなのだ。その線でいくと、今年は「マッサン」あたりが受賞するのだろうか。

 ともあれ、あまたの文学賞も多かれ少なかれ、こうした「思惑」とは無縁ではない。ここは温かい目で「あー、この方向で話題を集めたいんだな」とか「ここで張り合ってるんだな」とか「お約束だからしょうがねーな」とか、子どもを見守る親のごとくウォッチしてあげると、意外と楽しめるかもしれない。

著者プロフィール:堺文平(さかい・ぶんぺい)

 編集系の制作会社を経て、中小および大手出版社で主にビジネス書・実用書・語学書や雑誌の編集制作などを担当し、断りたかったけど断りきれずにウェブ担当も手がけてしまう雑食系編集者。なし崩しと安酒が飲める話と眠気に弱い団塊ジュニア世代。

 仕事を離れて読むのはサイエンス読み物、新書、マンガなどを少々。最近の趣味はダイエットおよびリバウンド。村山実・中村勝広・吉田義男(第3期)などが率いた暗黒時代の阪神タイガースで、甲子園での観戦勝率7割を誇ったことが人生における唯一の自慢である。


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