しかし、私にはまだ心配なことがある。今回のJR東日本の説明会見と、誤解された報道によって、事故がまるで運転士個人のミスによるものと断罪されかけたことだ。どんな企業でも、個人の不手際によるリスクを抱えている。だからこそ、リスクを最小限にするために、業務手順などを改善する。それなのに善処したつもりの従業員を「コイツが悪かったんです」とお白州に差し出す結果になってしまった。ひどい話だ。
従業員に悪意が無かった場合、企業はそれを個人の原因ではなく、業務手順や組織のあり方の不備として対処してほしい。ミスをかばってくれない会社に対して、当人だけではなく、多くの従業員は不信を募らせるだろう。小さな不信や不満の集積は、いつかモラルハザードを生む。それは会社全体を密かにむしばむ。JRグループは国鉄時代のさまざまな労働問題の中で、それを学んだはずではなかったのか。
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6月30日、東京発新大阪行「のぞみ225号」の1号車で男が焼身自殺を図って死亡した。巻き込まれた女性が死亡。20人以上が重軽傷。一部報道では東京オリンピックの防犯に言及し「新幹線のテロ対策の必要性」「荷物検査」を論じている。しかしこれは過剰な反応だ。悪意を持つ者はどんな対策もすり抜ける。
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業務上、世間の常識とはちょっと違うルールがある。それは運輸業だけに限らず、さまざまな業界に多少はつきものだ。ただし、それが「今までそうだったから」で続いているとしたら、再検証が必要だ。あなたの会社にも、理由が曖昧なまま続いている「悪しき慣習」があるかもしれない。
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