ブランディングの後進国であることを示した「東京五輪エンブレム問題」(2/4 ページ)

» 2015年09月07日 07時49分 公開
[川崎隆夫INSIGHT NOW!]
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 上記のように企業がロゴマークを一新する場合は、企業理念やビジョン、経営戦略などを企業とクリエイターが共有化した上で、社内外のステークホルダーに対する調査を実施し、デザイン開発の方向性・コンセプトを定めた後に、デザインの制作作業に取り掛かることが常となっています。

 また大手企業がロゴマークを広く公募して、応募作の中から良いデザインのものを選んだなどという事例を、筆者は聞いたことがありません。それは至極当然のことであり、ロゴマークは企業のブランド戦略に関わる重要なツールであるため、企業理念やビジョンなどとの関連性が重要であり、単に「デザイン的に優れた作品」が良いとは限らないからです。

 大会組織委員会がエンブレムのデザインを公募するのであれば、前述の「CIの実施プロセス」の1〜5について、組織委員会と審査委員会の間で十分な検討が為されていなければなりません。そうでないと、エンブレムが単なる「審査員の好み」によって選ばれてしまうリスクが高くなってしまうからです。

 現に今回は、審査員8名のうち半数の4名が佐野氏のデザインを推し、残り4名の審査員の意見はバラバラであったとの報告がなされています。筆者の推測ですが、これは審査委員会の中で、前述の「CIの実施プロセス」の「(4)開発基準の設定:調査/討議などによる方向感のすり合わせ」が不十分であったことに起因するもの、と思われます。

 東京五輪・パラリンピックは、多額の税金が投入されている国家プロジェクトです。単純に、審査員の好みで「デザイン的に優れた作品を選ぶ」といった次元で良いはずがありません。一般のデザインコンテストなどとは、目的や影響度が根本的に異なるからです。

 しかしながら、同じスキームでデザインの再公募が行われた場合、「類似デザイン問題」についてはクリアできるものの、「東京五輪・パラリンピック」の開催意義やコンセプトの訴求、及び「日本や東京の魅力を伝える」といった目的に合致したデザインが本当に選択されるのか、はなはだ疑問を感じざるをえません。

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