社会背景の説明が終わったので、技術の話に入る。内燃機関とは「燃料と適量の空気を混ぜて燃焼させ、その圧力を動力にする仕組み」である。キーになるのは燃料の混ぜ方と火のつけ方だ。
旧来のガソリンエンジンはあらかじめ燃料と空気を混ぜて圧縮し、点火プラグで電気的に火花を飛ばして燃焼を行ってきた。圧縮するのは、与圧することで燃焼ガスの膨張エネルギーが乗数的に増加するからだ。要するに圧縮するとエネルギーがお得になる。
お得になるなら、どんどん圧縮を上げればいいが、気体は圧縮すると温度が上がる。だいたい10分の1程度まで圧縮すると、温度上昇で勝手に火が付いてしまう。ガソリンエンジンでは、点火タイミングはプラグでキューを出したいのに、勝手に自己着火されては困る。最悪の場合、エンジンが壊れてしまうからだ。ノッキング(正確には早期着火)とはこのことだ。
ところが、ディーゼルエンジンではこの特性を積極的に利用している。ディーゼルでは吸い込むのも圧縮するのも燃料を混ぜていない空気である。燃料がないのだからいくら圧縮してもノッキングしない。近年圧縮率は下がりつつあるが、かつてはこれを16分の1くらいまで圧縮していた。空気は200℃を超える高温になり、ここに燃料を噴射すると自己着火して燃える。ディーゼルエンジンは点火プラグの代わりに燃料噴射をキューとして燃焼を開始するのだ。
その結果、ガソリンエンジンでは不可能なほど高圧縮できるので、エネルギー効率的にお得度が高いのがディーゼルのメリットなのだ。
さて、ではなぜディーゼルが排ガス的に苦しいのかと言えば、一言でいうと空気と燃料の混ざり合い方が不均衡だからだ。考えてみて欲しい。高温高圧の空気の中に燃料を噴射したら、空気に接触した途端燃え始める。だから噴射ノズルの周りでは燃料が濃いまま燃えて、正常に燃えた分がCO2になり、酸素が足りない分はくすぶってPMになる。一方で、ノズルから遠いところでは燃料が来ないのに高温になって酸素が窒素と化合してNOxになる。3つの化学反応が同時に起こっているのだ。
これを何とかかき混ぜて均等にしてみせるのがディーゼルの技術なのだ。最近は吸気の勢いやインジェクターの噴射力で縦の渦を作るのが流行りだ。しかし、どんなにかき混ぜようと、全体が濃いとCO2とPMが出やすく、薄いとNOxが出やすいという原則は変わらない。だからトレードオフになる。しかも、ディーゼルエンジンにはスロットルバルブがなく、吸入空気量は常に最大で、出力は燃料噴射量で調整する仕組みになっているため、最大出力時以外は薄いのが常態となる。NOxがどうしても発生しやすいのだ。
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