しかし不幸なことにDセグメントが必死にデザインと合理性のバランスをとっている間に、日本市場では、桁外れに大きな室内空間を持つミニバンの隆盛期が始まっていた。
そうなると、Dセグメントは、セダンとはそもそも何なのかという命題を突きつけられることになる。欧州でのセダンは200km/h近辺の超高速走行に必要な低重心と室内空間の両立、プロトコル上のフォーマルさという3つをバランスさせる唯一解として存在していた。
しかし、元来日本では200km/h近辺の高速性能など必要とされない。重心が上がるデメリットが問題にならないなら、室内空間が大きく取れるミニバンが優勢になるのは当然の流れと言えた。シチュエーションを100km/h以下に限ってしまえば、ミニバンの走行性能でも我慢できる。
高速性能は不要、室内空間ではミニバンに遠く及ばないとなると、セダンに残されるのはプロトコル(様式)だけだ。セダンは客室と荷室をはっきり区別するという意味で、自動車デザインの文法上高級な仕立てであり、フォーマルなものとされている。ミニバンは人も荷物も一緒くたという意味で、高級ではない。セダンが礼服のようなものだとするならば、よりスタイリッシュさが求められるのは当然の方向性だ。ある意味、ミニバンの存在によってセダンは大人4人が余裕を持って乗れるという実用性から解放されたのだとも言えるのである。
その結果として、トヨタ・カリーナED、日産プレセア、マツダ・ペルソナ、三菱エメロードなどのクーペスタイルを持つセダンが登場したのだ。室内空間というある種貧乏くさい実用性を削って、フォーマルに特化したのがこれらのクーペスタイルセダンである。しかし、当時は合理的デザインこそ正義という世相だったため、これらのクーペスタイルセダンはメディアに袋叩きにあうのである。
余談だが、後にベルリンの壁崩壊に起因する急速な経済成長によって、欧州でも高速道路の慢性的渋滞が引き起こされて、200km/h時代が終わりを告げる。その結果、ピープルムーバーと呼ばれるミニバン的なクルマがブームになる。そういう中で出てきたのがベンツのCLSであり、その背景構造はカリーナEDと酷似していると言っていいだろう。
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