「本を愛する人」からTSUTAYA図書館が嫌われる理由スピン経済の歩き方(7/7 ページ)

» 2015年11月10日 07時07分 公開
[窪田順生ITmedia]
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「図書館戦争」の行方に注目

 この流れはちょっとやそっとでは変わらない。「一部の本好き」が団結できる「仮想敵」ができたからだ。いわずもがな、TSUTAYA図書館だ。

 周南市で反TSUTAYAを掲げる市民団体の代表、沖田秀仁さん(67)は小説家らしい。彼の言葉からは物書きならではの、本への深い愛が伝わってくる。

 図書館はファッションではなく、子供たちの知育の場。計画に賛成でも反対でも住民投票に持ち込み、市政を市民の手に戻そう。

 ただ、水を差すわけではないが、今の市立図書館は「子供たちの知育の場」とは到底言い難い場となっている。平成26年度の『周南市立図書館年報』を見れば、館外貸出登録者数の個人内訳で幼児は0%、小学生は4%にすぎず、23歳以上が81%を占めている。周南市において図書館は、「本好きの大人」のものなのだ。

 市立図書館からわずか800メートルの場に「にぎわい創出」でTSUTAYA図書館なんぞ論外だというが、これも裏を返せば、市立図書館に「にぎわい」はないからでもある。

 「子供たちの知育の場」をつくるためにも、周南市の「にぎわい」創出のためにも今の市立図書館のあり方を直さなくてはいけないのは明白である。だが、沖田さんたちのような「本好き」からすれば、TSUTAYAになどすがれるわけがない。愛する図書館の秩序をかき乱す「無法者」だからだ。

 そういう意味では、本を愛する人たちから完全にそっぽを向かれた「TSUTAYA図書館」はもはや退場の道しかないのかもしれない。あるいは、なにか一発逆転の秘策があるのか。「図書館戦争」の行方に注目したい。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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