決戦兵器「エヴァンゲリオン」は山陽新幹線を救えるか杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)

» 2015年11月13日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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500 TYPE EVAの成功とは何か

 500 TYPE EVAは、山陽新幹線とアニメの対等なコラボレーションというより、山陽新幹線のプロモーションという意味合いが強い。もちろんアニメ制作側としてはコンテンツを長持ちさせたいだろうし、劇場版第4作目に向けた話題作りも必要だろう。

 しかし、直接的な利益はJR西日本にある。話題作りももちろんだけど、聖地巡礼による500 TYPE EVAの運賃・特急料金の収入が目的だ。もちろん、500 TYPE EVAに乗るために各地からJR西日本の電車を乗り継いでくださるわけで、周辺の路線の利益も上乗せされる。その意味では、山陽新幹線に直通する東海道新幹線の乗客増も期待できるわけで、JR東海はまさに漁夫の利だ。もっとも、東海道新幹線の圧倒的な利用客数に比べれば、取るに足らない数かもしれないが。

 JR西日本は500 TYPE EVAになる前の500系電車で、タカラトミーとコラボレーションした「プラレールカー」を走らせていた。その実績も加味した上での勝算が500 TYPE EVAにある。プラレールは子ども向けだけど、エヴァンゲリオンのファンの年齢層は高い。可処分所得が多いだけに、プラレールよりも売り上げは大きいかもしれない。

博多駅にオープンした「500 TYPE EVA Cafe」のコラボメニュー(出典:JR西日本) 博多駅にオープンした「500 TYPE EVA Cafe」のコラボメニュー(出典:JR西日本

 そしてもう1つ、JR西日本の会員制度「J-WESTネット」の集客も狙っている。「山陽新幹線・エヴァンゲリオンプロジェクト」のキャンペーンサイトには、J-WESTネット会員向けの特典映像が用意されている。アニメファンとしては気になるところ。入会したくなる。

 JR西日本の関連会社、ジェイアールサービスネット福岡は500 TYPE EVAにとどまらず、博多駅で「500 TYPE EVA Cafe」と「500 TYPE EVA SHOP」を開設した。大阪から500 TYPE EVAに乗って博多についた後の楽しみを提供しつつ、飲食と物販の両面で売り上げを積み上げる。これも正しい営業戦略だ。逆に、福岡発新大阪行きに乗ったファンのために、新大阪駅側にも何か目的地がほしいところである。

 これに対して、アニメ制作会社側も、もう少し欲張ったファンサービスがあってもいい。500 TYPE EVAは博多発06時36分→新大阪着11時14分、新大阪発11時32分→博多着16時07分。ほぼ毎日運行で、2016年2月までの運行日が告知されている。この列車の到着に併せて、近隣の映画館で劇場版の特別上映を実施したら集客できそうだ。博多発が早朝だけど、劇場版全作品をオールナイト上映した後で乗車できたら嬉しい。そして、前述のように、劇場版で登場するモノレールに併せて、小倉駅を発着する北九州モノレールも何か仕掛けがあれば良かった。

JR-WESTネット会員のみの限定映像コンテンツがある(出典:「山陽新幹線・エヴァンゲリオンプロジェクト」公式サイト) JR-WESTネット会員のみの限定映像コンテンツがある(出典:「山陽新幹線・エヴァンゲリオンプロジェクト」公式サイト)
500 TYPE EVAになる前は「プラレールカー」だった 500 TYPE EVAになる前は「プラレールカー」だった(出典元

 鉄道とアニメのコラボレーションは、大井川鐵道のきかんしゃトーマスなど、各地で取り組まれている。鉄道とアニメの両方が好きな人にはたまらない企画だ。しかし、その人たちだけを楽しませるだけでは小さくまとまってしまう。鉄道好きにはアニメを知ってもらい、実際に観客になっていただく。アニメ好きには鉄道の旅の楽しさを知っていただく。これが成功のゴールとなる。キャンペーン期間は短いけれど、終盤へ向けてどんどん盛り上がってほしい。

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