手詰まり感のJR北海道、国営に戻す議論も必要ではないか?杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)

» 2015年11月20日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

観光客の目的地が消える

 普通列車の減便は通学・通勤に影響が出る。観光客には関係ないと思うかもしれない。私に言わせれば、北海道に限らず、鉄道旅行の面白さは普通列車にもある。各駅に停まって周囲の風景をゆっくり楽しめるし、ふと思い立って途中下車してもいい。お行儀が悪いけれど、地元の乗客の会話を盗み聞きすると、土地柄も伝わってくる。

 普通列車の旅は鉄道ファンがこだわる程度かもしれない。しかしJR北海道は一般観光客が興味を示す列車も減らしている。10月23日に発表された冬の臨時列車は少なかった。その象徴として、札幌と網走を結ぶ「流氷特急オホーツクの風」がなかった。この列車は眺望のよいリゾート車両を使い、中央の2階建て車両1階にサロンを設けている。

この冬の運行が発表されなかった「流氷特急オホーツクの風」。数年前から故障が頻発し、他の車両による代走も多かった この冬の運行が発表されなかった「流氷特急オホーツクの風」。数年前から故障が頻発し、他の車両による代走も多かった

 車窓は北海道の広大な大地、針葉樹林を駆け抜ける。雪が載った針葉樹はすべてがクリスマスツリーのようで見事だ。道外からの観光客にとっては異国情緒さえ感じさせてくれる。終着の網走は流氷観光の拠点である。冬の北海道観光の看板といえる列車だ。それが消えた。

 さらに、網走から先、オホーツク海沿岸を走る「流氷ノロッコ号」についてもこの冬限りで廃止と決めたようで、11月11日に複数の新聞が報じている。理由は機関車の老朽化とのこと。流氷ノロッコ号は夏季に「釧路湿原ノロッコ」として使うから、こちらも連動して廃止となるだろう。

今季限りで廃止と報じられた「流氷ノロッコ号」。5年前に私が乗ったときは中国・台湾からの観光客が多く満席。JR北海道も通訳を乗せて対応していた。廃止の理由は機関車の老朽化という 今季限りで廃止と報じられた「流氷ノロッコ号」。5年前に私が乗ったときは中国・台湾からの観光客が多く満席。JR北海道も通訳を乗せて対応していた。廃止の理由は機関車の老朽化という

 さかのぼれば昨年7月に、函館・札幌エリアで運行していたSL列車の廃止も決定していた。釧路方面のSLは残すけれど、これから新幹線がやってくる函館方面は廃止。機関車は東武鉄道への貸し出しが決まっている。東武鉄道は2017年度から鬼怒川温泉の観光列車として運行する予定だ(関連記事)

 JR九州は九州新幹線の開業に向けて観光列車を増やした。北陸新幹線金沢開業ではJR西日本と、のと鉄道が観光列車を投入した。しかしJR北海道は観光列車を廃止する。真逆の方針である。新幹線で北海道観光に行きたいと思う人は、飛行機利用者に比べると「親鉄道派」と思われる。しかし彼らが北海道に渡っても目的地がない。

こちらはJR四国の「しまんトロッコ」。貨車を改造したトロッコ車両を気動車が引っ張る。機関車がなくても、工夫次第でトロッコ列車は運行できる こちらはJR四国の「しまんトロッコ」。貨車を改造したトロッコ車両を気動車が引っ張る。機関車がなくても、工夫次第でトロッコ列車は運行できる

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