南海電鉄50000系は、SFコンテンツとのタイアップにピッタリの造形だ。元々の青色塗装もSFに出てきそうでカッコいい。しかし、この造形はデビュー当時の鉄道趣味界では賛否が分かれた。当時20代だった筆者もビックリした。既存の鉄道車両デザインの延長にはない形だった。
鉄道車両のデザインに作法があるとすれば「機能美」の追求であった。いっさいの飾りを廃し、機能性を極めれば、形は自然に整っていく。蒸気機関車も、新幹線も、特急電車も、通勤電車も客車も、鉄道車両の形には、その形になるべき理由があった。飾りなどなくてもいい。
南海電鉄50000系は、こうした先人技術者の作法を無視した。運転台付近を球体のように丸くする。前面の真ん中から鼻筋を尖らせる。この2つのデザインに、走行に必要な機能はなかった。ただカッコ良くしたい、というだけのデザインだ。南海電鉄はこのデザインコンセプトを「レトロフューチャー」という。Webサイトにも「力強さと速さを融合させた先頭形状と人間味ある曲線、航空機のイメージから生まれた楕円窓」とある。
つまり、実際の機能よりもイメージを優先した。そのカッコ良さは分かりやすい。しかし、「飾り物が無いからこそ美しい」と考える保守的な鉄道ファンとしては許せない形状だ。どちらかというと、私もそうだった。そのカッコ良さはあざとい。もし、当時、2ちゃんねるがあったら、賛否両論で炎上間違いなしだ。いや、パソコン通信のBBSではどうだったか。鉄人28号に似てる、と盛り上がる一方で、鉄道車両として異論もあった気がする。必要も無いのに先端が刀のように尖っていて、踏切で人やクルマと衝突したら真っ二つにされそうだ、というような。
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