ガンダム、ジェット機、スターウォーズ……南海電鉄「ラピート」の革命杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)

» 2015年11月27日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

鉄道会社が「環境デザイン」を重視するきっかけとなった

 鉄道車両のデザインは機能美を重視している。例えば、国鉄時代の初期の特急電車は、先頭車がボンネットタイプだった。これは先端を尖らせて早く見せようとしたわけではない。騒音源となる発電機や空気圧縮器をボンネットに収め、客室から離すためだった。初代新幹線車両0系の流線型は空力特性を考慮し、風洞実験も行われた。これは風切り音を低減するためでもあり、運転士の視界から真下の線路を隠し、眼の疲労を軽減するためでもあったという。

 しかし、機能美には大きな欠点がある。「機能を理解していなければ美しさを理解できない」である。例えば、蒸気機関車はカッコ良いだろうか。今の私ならカッコ良いと思う。しかし、子どものころの私は蒸気機関車のカッコ良さが分からなかった。真っ黒で、デコボコで、丸太を載せたような車体に大きすぎる車輪、運転席はなぜか後ろ。アタマから煙が出る。下からも煙(水蒸気)が出る。表面にパイプが這っている……。

 それに比べると、電車の顔つきは整っていた。今から40年前だから、山手線は真四角な103系、地元の東急は、東横線にキラキラしたステンレスカーの8000系がデビューしていた。しかし、自宅の最寄りの池上線は3000系という緑色の古い電車で、前面に貫通幌の付いた車両はカッコ悪かった。電車のデザインは蒸気機関車よりもマシだったけど、流線型の新幹線や湘南電車に比べれば見劣りした。

 それでも成長して車両の機能が分かってくると、機能美のカッコ良さが理解できる。蒸気機関車はゴツゴツしているけれど、どれ1つムダな部品はない。すべて必要なのだ。そう知ったときから、私は蒸気機関車をカッコ良いと思えた。真四角な電車も、室内の広さを最大にするためと理解すれば、この形がベストだと思える。

 南海電鉄50000系は、機能性重視だった鉄道車両デザインに「環境重視」という新たな概念を持ち込んだ革命児といえる。南海電鉄50000系にとって「環境」は、関空アクセスというソフト面だ。飛行機で旅立つイメージを最寄り駅から始める。飛行機で降りた人々の高揚感を最寄り駅まで保ち続ける。そのイメージを重視している。そう考えると、飛行機を連想する円い窓の意味も理解できる。

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