スズキに見る、自動車メーカーの「成長エンジン」池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/6 ページ)

» 2015年11月30日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

新興国で売れるクルマ

 そして現在だ。中国の経済はもはや誰の目から見ても変調が明らかである。政府による株価買支えのような異常なオペレーションが行われている影響で、自由経済市場としての信頼が根底から揺らいでいる。中国のモータリゼーションが今さら後戻りするとまでは思わないが、しばらく停滞期に入るであろうことは容易に想像がつく。

 ただし、歴史を紐解けば経済は例外なく循環する。中国経済が混乱から回復した暁には、まだまだ巨大な成長余力があることも明らかだ。日本の人口1億1000万人に対して、新車販売台数が560万台という比率を中国の14億人に当てはめれば7100万台のポテンシャルがあることになる。2014年時点での日中の国民一人当たりGDPには5倍近い開きがあるので、一気に7100万台市場になるのは難しいだろうが、現状の2300万台が倍の4600万台程度まで伸びることは十分考えられるだろう。

 そしてこの回復した中国経済の消費者として一気に上昇してくるのが、これまでの富裕層ではなく、中国の非富裕層だろう。だからこそ台数がジャンプアップするわけだ。ただし、それがしばし先の話になるだろうことは先述した通りだ。

 その中国の停滞期を埋めるのは、インドとASEANであることは間違いない。現在のところ、インドは300万台、ASEANが300万台という規模に過ぎないが、両者を合わせた人口は18億人に達する。上述の式に当てはめれば、9200万台のマーケットになる。

 さて、こうしたマーケットの推移を見てはっきりするのは、世界の自動車市場において拡大余地があるのは、明らかに経済成長過程にある国や地域だ。つまり高級車を売る市場ではない。日米欧の先進国では、既にマーケットは飽和しており、買い替え需要以外を開拓する余地は残っていない。しかも長期的に少子化が進行中なので、その買い替え需要もシュリンクしていくと予想するのが順当だろう。

 つまり、今後10年間に販売台数が伸びるマーケットはインド、ASEAN、回復が間に合えば中国という順番になる。ということは、安価な小型車を制するものこそが爆発的に拡大するマーケットを支配することになる。

 そういう意味では、燃料電池、電気自動車あたりは完全にお呼びでない。これらのクルマはシュリンクしていく先進国マーケットで台数の落ち込みをカバーする単価の引き上げには寄与するだろうが、新興国マーケットで数字を取るための戦力としては全く期待できない。旧来の内燃機関をより洗練させるか、安価なマイルドハイブリッドを武器にしているメーカーだけが決勝戦に進出する権利を持っているのだ。

 ということで、注目すべきはやはりBセグメントだ(関連記事)。ポイントを整理すれば、新興国マーケット、つまり従来のマーケットサイズを5割増かそれ以上にするかもしれないマーケットで売れるクルマは安いクルマでなくてはならない。そして、5割も台数が増えるのだとしたら排気ガス性能と燃費性能を優れたものにしないと、サステイナブルな社会が営めなくなるということだ。

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