スズキに見る、自動車メーカーの「成長エンジン」池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/6 ページ)

» 2015年11月30日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

新興国にターボは向かない?

 直噴が燃費に寄与する理由は、わりと簡単で、気化潜熱を利用した実効圧縮比の向上にある。注射のときにアルコール綿で肌を拭かれるとスーッとするように、気体は蒸発するときに熱を奪う特性がある。ピストンが下がって空気を吸い込むときにそこに燃料を噴射してやると吸気温度が下がって、空気の体積が減り、吸気量を増やすことができる。温度が下がればノッキングが起きにくくなるので、圧縮比を上げて熱効率を高めることができるし、ノッキングを防ぐために点火タイミングを遅らせて効率が激減することも防げる。改善手法としては充填効率の向上と燃焼の改善だ。

 ターボは、小排気量化とレスシリンダーで改善を狙う。かつての高出力型ターボは高回転での充填効率を狙っていたが、現在のいわゆる小排気量ターボは、低い回転数でのトルクアップが狙いだ。簡単に言えば、小排気量の軽量エンジンに過給して2000回転付近のトルクを充実させる。低速に十分なトルクがあれば、エンジンを回さない分摩擦損失が低減するので燃費が良くなる。

 ターボのメリットは小型軽量化と低速トルクのアップだが、デメリットもある。コストをかけて複雑な機構を採用すれば改善の余地があるものの、こういう機械は原理的には一点チューンなので、どうしてもスイートスポットが狭くなる。低速トルクを出すことが低燃費技術の目玉だとすれば、高速側は諦めるしかない。極めて実用色の高い性格のエンジンになることだ。

 もう1つ、小排気量ターボが最も効率良くなるのは、エンジンを低回転に保った状態で高いギヤを使って巡行するような場面だ。ここはこのシステムの独壇場なのだが、回転を上げ下げするのは苦手な性質を持っている。渋滞路で発進停止を繰り返すような運転にはどうしても向かない。高速道路網が出来上がった先進国ならいざ知らず、新興国は道路網の整備状態が万全とは言い難いので、どうもターボではない気がするのだ。

 マイルドハイブリッドは面白い。これはプリウスのような大掛かりなシステムではなく、元々クルマに搭載されている発電機にモーターの役割を兼任させる仕組みだ。発電機とモーターは「力を電気に変える」か、「電気を力に変える」かの違いしかなく、仕組みは同じだ。だから発電機に電気を流す仕組みさえ作れば、モーターとして利用することができる。新たな部品をつけることなく、小改良で成立するので安価に作れる。

 モーターだけの力で走るとか、そういう無茶を言わないければ、エンジンと協調してパワーを後押しすることができる。内燃機関が本来苦手とする低速トルクをこのマイルドハイブリッドに補完させれば、エンジン排気量が小さくてもトータルでこと足りる可能性が高い。

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