環境保護活動とビジネスは共存できる――パタゴニアの辻井隆行支社長(2/6 ページ)

» 2015年12月03日 08時00分 公開

永井: なるほど。あくまで自分たちが必要なもの、品質を求めた結果だ、ということですね。

辻井: 本国では、社内に初めて託児所を作った会社として、また移民労働者保護への取り組みが評価されたりして、一昨年からホワイトハウスに3度も招待されるなど、米国ではパタゴニアの取組みが一定の理解を得ていると感じています。一方で、1988年に進出した日本では、「パタゴニアはクオリティを追っているよね」「自然に優しいんでしょ」といった漠然としたイメージを持たれていて、それによって製品を選んでいただいている方も多いと思いますが、こういったストーリーはもっと伝えていかなければならないなと思っています。

 環境問題に対する活動も、まず起点は僕たち自身にあります。当たり前のことですが、僕たちは社会の一員なので、その自分たちが幸せに生きていくために何ができるだろうか、「死んだ地球(=自然が破壊され資源が失われた場所)ではビジネスはできない」といった考えがベースにあります。だから、数ある社会問題の中でも環境問題の優先順位が高いと考えているんです。

 環境問題って、自然とか動物のことだっていうイメージが強いと思います。でも、実は「人間の問題」なんです。

永井: 人間の問題。

辻井: そうです。私たち人間がこの先も地球上で他の生命と共に生きながらえていけるかどうか、に直結した話です。日本ではなぜか環境問題とか民主主義を語ると、すぐいわゆる「過激な活動家」のイメージをもたれがちですよね。もちろん一部の活動家のあり方もまた誤ったイメージを助長している面もあるとは思いますが……。けれども市民や国民の生活に影響することは、必要な情報を開示した上で、みんなで決めたほうが良いはずです。環境問題も、自然は人間が生きていくためにも豊かであり続ける必要があるし、でも生活も大事だ、という中でのバランスの問題だと捉えれば、より多くの方々の「自分事」になると思うんです。

 最初に紹介した鋼鉄製のピトンは大ヒットしたけれど、岩場が今度は穴だらけになってルートとして使えなくなってきたという新たな問題も起こってきました。その時に下した決断は、ピトン作りを止めて、今度はチョックという岩場のすき間に挟んで使う道具を開発するというもの。「これからは山を汚さない、クリーンなクライミングを行うべきだ」というエッセイと共に当時のカタログでヘキセントリックと名づけたチョックのラインアップを紹介したところ、またお客さんの共感を得ることができたんです。「正しいことをすれば結果は必ずついてくる」「自分が顧客としてイヤなことは変えていかないといけない」といったパタゴニアの原点が改めて確認されたのはこのときだと思いますね。

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