ただ文化だと言われても、やはり腑(ふ)に落ちない。というのも、普通に考えれば、銃がなくなれば銃による犯罪は減る。米国では毎年3万人が銃によって、殺人、事故、自殺などで死亡する。つまり1日80人以上が銃で死ぬのである。銃がなければそのうちの多くの命が救われる可能性がある。なぜ助かる命を救わないのだろうかと、銃を持ったことのない日本人は考えてしまう。
事実、世界には、銃撃事件後に銃規制を強化して成果を上げた国々がある。1996年に35人が殺害される銃撃事件の起きたオーストラリアはその12日後に銃規制を決め、60万丁の銃を買い取った。また個人所有のルールを厳しくすることで銃による殺人を60%近く減らすことに成功した。英国では銃による大量殺人が1987年(死者16人)と1996年(死者16人)に発生したために銃規制を強化し、連射式銃の販売を禁止した。これにより銃による犯罪は大きく減少した。
一方で今まさに、米国を参考にしようとしている国がある。ブラジルだ。米国のように国民に銃を持たせて自己防衛させようと考えているのだ。治安の悪さが有名なブラジルでは、年間6万件近くの殺人事件が発生する。最近議会に提出された法案では、現在の許可制から規制緩和する。ブラジルでは2003年に規制強化が行われてしばらくは銃による犯罪が減ったが、その後また増加したという苦い経験から、規制を緩めるとしている(ブラジルでも銃産業は政治に影響力をもつ、ということもある)。この法案に対して、今賛否が議論されている。
ブラジルはすでに米国同様、負のスパイラルに陥っているようだ。すでに銃が巷に溢れ返っているために、いまさら銃をなくすことはできないということか。
3億丁とも言われる銃が出回っている米国。銃は米国人の文化であり、もはや銃を減らす選択肢や厳しい規制は現実的ではない。ならば米国は、隣の人よりも高性能な銃をテレビショッピングで買って心を落ち着かせるという負のスパイラルを突き進むしかないのかもしれない。ただ銃乱射事件が自分の近くで起きる危険性が消えることはない。
山田敏弘
ノンフィクション作家・ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員を経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。
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