自動車づくりの“日本回帰”を支えているのは?池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)

» 2015年12月14日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 2012年に中国で起きた日系企業に対する暴動や焼き討ち騒ぎの結果、進出企業は製造拠点の移転を考える。選択肢は2つある。1つは中国よりあらゆるコストが安いASEANとインドへの転出だ。しかし、日本の企業も中国進出で海外拠点でのモノ作りの問題点を学んだ。労働者の質的問題や電力、原材料などの供給、そして異なる法律やルールに慣れなければならない不自由さがそこにはある。

 さらに一定以上の製造業が進出すれば当然経済発展が起こり、雇用コストは長期的には必ず上昇する。中国の場合、予想より圧倒的に早くコスト上昇が起こり、立ち上げの苦労からようやく旨味のある経営体制に入ったかと思ったら、そのパワーバンドを維持した期間は思いのほか短かったのである。新興国へ転出した場合、それが再び起きないという保証はない。

 しかしながら、一方で、製造拠点は単に製造コストの低減だけを意味するわけではない。経済発展の暁にはモノ作り拠点としてのメリットは目減りするだろうが、入れ替わりにマーケットとしての旨味が発生する。人口13億人のインド、2億5000万人のインドネシア、1億人のフィリピンとベトナムなど、今後の発展に鑑みれば垂涎のマーケットでもある。そうした大消費マーケットに製造拠点を設けることには別の面で大きな意味があるわけだ。

 一方、日本はどうか、日本の場合、今後雇用コストが短期的に跳ね上がる可能性はそれほど高くない。もちろん長い目で見れば、少子化の影響で需給が引き締まることはあるかもしれないが、質とロイヤリティの高い労働者に加え、文化的摩擦も考慮する必要がないなど大きなメリットもある。

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