「中年フリーターが増えると日本は危ない」は本当かスピン経済の歩き方(4/5 ページ)

» 2015年12月15日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

「宿泊業、飲食サービス業」は成長の余地あり

 冷静に考えてみればこの結果は当然だ。他分野では多くの「中年正社員」「老年正社員」が会社にガッツリしがみついているので、安定を脅かす「非正規の正社員化」に抵抗があるが、「宿泊業・飲食サービス業」では学生時代からのバイトが正社員になるという流れも珍しくない。さらに言えば、派遣労働者の少なさも影響している。平成21年(2009年)の経済センサス・活動調査によると、事業従事者数に占める派遣労働者の割合は「ブラック企業」の代表格といわれる「情報通信業」が8.7%、「金融業、保険業」が7.3%であるのに対して、「宿泊業、飲食サービス業」は1%にとどまっている。

 これにさらに追い風となるのが「インバウンド」だ。帝国データバンクがこの夏に調査をしたところによると、非正社員についての人手不足を感じている業種は「飲食店」(71.8%)がダントツ。訪日外国人増加の影響で今年初めと比較して16.7ポイントも増加している。もちろん、「旅館・ホテル」も5位(48.2%)と労働力としての非正社員を求める声が多い。

 つまり、「正社員を目指す35〜54歳」にとって「宿泊業、飲食サービス業」というのは他の産業と比較すれば、まず雇ってもらうハードルが低く、その後に正社員登用される可能性も高い分野ということが言えるのだ。

 こういう状況を踏まえると、国がやらなければいけないことがおのずと見えてくる。それは国として「宿泊業、飲食サービス業」をかつて製造業のように「基幹産業」として盛り上げていくことだろう。

 みずほ総研の「わが国のサービス産業の現状と問題点」(2013年1月)に『日本のサービス産業は生産性の「水準」でみても、「伸び率」でみても欧米各国に比べて見劣りするレべル』と明記されているように、「宿泊業、飲食サービス業」は、まだまだ成長の余地がある新興市場であることは明白だ。

 加えて、これらの分野が「観光業」でもあることを忘れてはいけない。

 訪日外国人観光客が2000万人を突破し、3000万人を目指そうという日本では、特に観光業の人手不足解消が急務である。国連世界観光機関(UNWTO)の2014年データによると、世界では11人に1人が観光業に関わっている。これを日本にあてはめれば、少なくとも1145万人は観光業に携わっていなければいけない。

 が、現状はどうかというと、波及効果も含めても雇用は399万人(日本旅行業協会編・数字が語る旅行業2014)ぽっちしかいない。「宿泊業、飲食サービス業」でも555万人(総務省統計局サービス産業同行調査ニュース・平成27年9月発行)たらずであり、世界平均の観光サービスを提供するには圧倒的な「人手不足」と言わざるを得ない。

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