三陸縦貫鉄道が終了へ……BRT自身の観光開発に期待杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)

» 2015年12月25日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

「過去の鉄道に未来はあったか」「復旧した鉄道に未来はあるか」

 JR東日本は仮復旧と言いながらも、線路をどんどんアスファルトで埋めていった。私には「BRTを既成事実化して、当初から後戻りできないようにしている」と感じられた。地元の人々にとっても、BRTの便利さと、もう鉄道は戻らないのではないか、という不安を合わせた複雑な感情だっただろう。

 気仙沼線、大船渡線の復旧については、震災から4カ月後の2011年7月に「復興調整会議」が発足。しかし、2014年2月にJR東日本が約1100億円の復旧費用を提示して以降、停滞していた。復旧費用の内訳は、気仙沼線が約700億円、大船渡線が約400億円。JR東日本はこの費用のうち、気仙沼線のルート変更費用約400億円と、大船渡線の約270億円の負担を国や自治体に求めた。

 しかし、2015年6月5日から始まった沿線自治体首長会議において、国は負担に応じられない立場を示した。「会社全体として黒字の企業の設備を援助できない」という、従前からの建前論だ。民間企業のJR東日本としては、赤字になると分かっている路線の復旧に、約1000億円以上の自社負担は投じられない。事実、BRTで仮復旧した区間について、運行本数を増やし利便性を高めたにもかかわらず、被災前の利用者数を下回っているという。沿線自治体にはもとより鉄道復旧の予算はない。予算は少しでも他の復興事業に振り向けたい。

 これでJR東日本の「鉄道復旧せず」の方針は決まった。2015年7月24日、JR東日本は第2回会合で「BRTの仮復旧を本復旧として進める」と提案した。ここから沿線自治体にも鉄道復旧断念、BRT容認という空気が流れていく。2015年8月27日の地元紙「河北新報」に、沿線自治体首長の声が掲載されている(関連リンク)。

 この中で、菅原茂気仙沼市長の声が印象的だ。「利用客が減少し、サービス向上が望めなかった震災前の気仙沼線にどれほど希望があっただろうか」。それに比べれば、運行本数も停車駅も増えたBRTに希望を見いだしたいという。布施孝尚登米市長は、BRTを評価しつつ、鉄道区間で残った気仙沼線の前谷地駅〜柳津駅の継続を要望している。佐藤仁南三陸町長はBRTに賛成の立場。町の財政負担が不可能で、復旧の時間もかかる。三陸沿岸道路が町内に達し、観光客はマイカーや高速バスが有望。鉄道のほうが不便とまで言い切った。

 戸田公明大船渡市長はBRT本復旧について、JR東日本の勇気と責任の現れとして評価。むしろBRTの終点となる盛駅から大船渡東高前の延長や、特急・急行バスを求めている。戸羽太陸前高田市長も、もはや鉄道かBRTかという選択の問題はないと考えている。いかにBRTを使いやすくするかを検討したいようだ。

 このように、沿線自治体はBRT本復旧やむなしで意見がそろっている。その背景には、人口減、予算減の中で鉄道復旧の負担の大きさがある。そして、将来を展望したときに、鉄道を復旧させたところで、再び存廃問題となると予想がつく。そのとき、JR東日本を支援するとしても、第3セクターに移管するとしても、沿線自治体の負担が増え、復興、新興の足を引っ張る。BRTであれば、当面はJR東日本が面倒を見てくれる。もし自治体の支援を要請されたとしても、鉄道より負担は小さいだろう。

気仙沼線・大船渡線不通区間のBRT整備図と自治体の関係。黒線が鉄道不通区間、赤線がBRTルート。黒線の上に赤線が重なる部分がBRT専用道区間。気仙沼線のBRT専用道は分断されているが、JR東日本は90%を専用道にすると提案している。大船渡線の上鹿折駅と陸前矢作駅の間は過疎ルートのため、海岸の国道沿いルートに変更。両駅は支線として整備されている 気仙沼線・大船渡線不通区間のBRT整備図と自治体の関係。黒線が鉄道不通区間、赤線がBRTルート。黒線の上に赤線が重なる部分がBRT専用道区間。気仙沼線のBRT専用道は分断されているが、JR東日本は90%を専用道にすると提案している。大船渡線の上鹿折駅と陸前矢作駅の間は過疎ルートのため、海岸の国道沿いルートに変更。両駅は支線として整備されている

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